Conway多項式を使って有限体の表現を一意に定めよう

有限体を生成する既約多項式の選択 前回の記事では有限体の代数的閉包について調べた。その際、有限体の間の包含関係には、包含のさせ方が一意に定まらないという問題があることを述べた。その具体例としてという単射が一意に定まらないということを確かめた…

有限体の代数的閉包

はじめに 有限体の代数的閉包ってどうなるんだろう?ずっと前にこの疑問を抱いてからずいぶんと時間が経ってしまった。どうにも最近は子どもとマイクラする時間が長すぎて趣味の時間が取りづらい。子どもが大きくなればそのうち親離れしてくのだろうか。今は…

パーセンタイルの分散って難しい

近況 久々のブログとなってしまった。最近は本職関連の勉強が忙しく、なかなか数学に手がつかなかった。転職してから1年が経過したが、現職は勉強したことがかなり業務に活かせる環境なので、勉強意欲が溢れて時間が足りない状況が続いていた。今年はなんと…

有限体上の線形代数を探訪する ~ 双対空間編 ~

ここまで長らく有限体上の線形空間について考えてきた。本稿ではそのフィナーレとして、有限体上の線形空間の双対空間について考えてみる。 線形空間の双対空間 双対空間の定義をWikipedia[1]より引用する。 双対空間 体上の任意のベクトル空間の(代数的)…

有限体上の線形代数を探訪する ~ 固有値・固有ベクトル編 ~

前回の記事では有限体上の線形空間における直交補空間について考えた。本稿ではその続きとして固有値と固有ベクトルについて考えてみる。 固有値と固有ベクトル 固有値と固有ベクトルの定義を本[1]より引用する。 固有値と固有ベクトル を上の線型空間, をの…

有限体上の線形代数を探訪する ~ 直交補空間編 ~

前回の記事で有限体上の線形空間の定義の妥当性などを確認した。本稿ではその続きとして直交補空間について考えてみる。なお、本稿で扱う線形空間は特に断らない限り有限次元であるとする。 ベクトルの直交性 直交補空間とは、平たく言えばある部分空間に属…

有限体上の線形代数を探訪する ~ 線形空間から次元定理まで編 ~

前回の記事から随分と間が空いてしまったが*1、本稿では有限体上の線形空間について考えてみたいと思う。単に線形空間とだけ言うと対象が広大になり過ぎるため、本稿では次元定理が成り立つことを確かめるところまでをスコープにする。そのために、まずは線…

有限体上の線形代数を探訪する ~ 行列編 ~

前回と前々回の記事では有限体の元を成分に持つ数ベクトルについて調べた。本稿ではその続きとして、有限体の元を成分に持つ行列について考えてみたいと思う。 確かめたいこと あまり網羅的なアプローチではないが、さしあたり有限体の元を成分に持つ行列に…

有限体上の線形代数を探訪する ~ 数ベクトル編その2 ~

前回の記事で有限体の元を成分に持つ数ベクトルについて考えた。本当は次は行列についての記事を書こうと思ったのだが、そちらを書いている最中に数ベクトルの一次独立性について疑問点が生じてきたので、本稿ではそれについて考えてみる。 正標数はつらいよ…

有限体上の線形代数を探訪する ~ 数ベクトル編 ~

有限体上での線形代数はどうなるのか? 以前の記事で有限射影幾何というものを少し扱った。その中で、そもそもそんな難しいことをやる以前の問題として、有限体上の線形代数が分かっていないことが致命的に厳しいと感じた。例えば、や上での線形代数でよく使…

popen関数の挙動まとめ

C言語のpopen関数の挙動にいつも混乱させられるので、自分用メモとして挙動をまとめてみる。 popen関数の挙動 popen関数はファイルを開くようなノリでプロセスをopenできる。popenの戻り値としてファイルディスクリプタが返ってくるので、それを使ってopenし…

Clang LibToolingを用いたクラス内依存関係抽出ツールの開発

久々に数学とは関係ない記事を書いてみる。最近、「レガシーコード改善ガイド」という本を読んでいる。概要としては、「レガシーコードとはユニットテストが存在しないコードのことである」という独自の哲学の元、レガシーコードをいかにして改善するかとい…

直交表の数理 ~ 有限射影幾何を用いた直交表の構築編 ~

前回の記事で有限射影空間の理論を用いた行列の構築について説明した。本稿では前回説明した手法で正しく直交表が構築できることを証明し、実際に直交表を構築するプログラム例を示したいと思う。 有限射影幾何を用いた直交表構築手法の証明 おさらい を因子…

直交表の数理 ~ 有限射影幾何を用いたG行列の構築編 ~

前回の記事ではMOLSを用いた直交表の構築方法について説明した。この方法では構築できる直交表のパターンに限界があるため、他のより優れた方法について調べてみた。直交表の構築方法にはいろいろあるようだが、本稿では私が特に数学的に面白そうだと感じた…

直交表の数理 ~ MOLSを用いた直交表の構築編 ~

前回の記事ではmutually orthogonal Latin squares (MOLS) というテーブル群を構築する方法について説明した。本稿ではMOLSを用いて直交表を構築する方法について説明する。 直交表の構築 基本の構築方法 を素数、を1以上の整数、とする。このとき、MOLS()か…

直交表の数理 ~ MOLSの構築編 ~

世の中には実験計画法というものがある。実験計画法そのものに対して私は特段知見があるわけではないが、これがソフトウェア等のテストパターンを効率的に削減するのに役立つということは以前からなんとなく知っていた。考え方としては、全部のテスト条件の…

その仮説検定、本当に大丈夫ですか? 〜 2つの誤りをコントロールしよう

統計検定2級に合格しました 最近、統計検定2級に合格した。素直に嬉しい。2級は大学教養レベルの内容ではあるが、それらを良く理解していないと合格できないので、良い勉強になった。余談だが、以下のサイトは2級合格に必要な情報が網羅されており、大変参考…

クーポンコレクター問題の拡張とその確率分布

以前、クーポンコレクター問題の確率分布について調べたことがある (詳細はこちら) 。これはこれで大きな成果だったのだが、いざこれを実用しようと思うと、少々物足りないことに気づいた。例えば、6種類のクーポンを全て集めることを考える。以前求めた確率…

測度論がちょっと分かった気がする ~ルベーグ測度を見つめる~

前回の記事では、測度論の一般的な事柄について理解を深めた。本稿ではルベーグ測度に焦点を当てて、理解を深めていきたいと思う。 外測度と内測度 ルベーグ測度とは面積や体積を一般化したような量、いわば集合のサイズを計るための道具である。ルベーグ測…

測度論がちょっと分かった気がする ~完全加法族から可測関数まで~

私が初めて測度論を勉強したとき、それはルベーグ積分の準備として勉強したのだが、なんだか良く理解出来なかった覚えがある。測度論がやろうとしていることはなんとなく分かる。一番最初のモチベーションは、やはり面積や体積のような概念を数学的に厳密に…

符号付き整数の代数的構造

数学の勉強に行き詰まったので、プログラミング関連で思い付いた小ネタについて書いてみる。C言語でプログラミングをしたことがあれば、符号付き整数というものは扱ったことがあるだろう。例えばint型の変数とか、そういうものである。符号付き整数では負の…

代数幾何学で遊ぼう ~なぜZariski位相を使うのか~

前回に続き本稿でも代数幾何学について考えてみる。今回のテーマはZariski位相である。代数幾何学と言えば必ずと言って良いほどZariski位相が登場する。Zariski位相は多項式の集合の共通零点によって定められ、確かに代数多様体に入れる位相として相応しいよ…

代数幾何学で遊ぼう ~Nullstellensatzの強形と弱形~

趣味で数学を勉強し始めてから幾星霜、ついにここまで来た。そう、代数幾何学である。ついにこの高みに手を伸ばすところまで辿り着いたのだ。修士一年の頃から約8年、研究に役立てばと群論を学び始めたのがきっかけだったが*1、その道すがらで出会った代数幾…

16進数から10進数への変換を概算で求める

私はソフトウェア開発という仕事柄、日常的に16進数を扱っているのだが、16進数を10進数に変換したくなることがよくある。これはWindowsの電卓機能で簡単に実現できるためどうということはないのだが、もしこの変換を暗算で高速に行えると良いと思うことがあ…

情報幾何学を嗜む ~ダイバージェンスの不変性~

前回までの記事で確率分布のパラメータが成す空間の双対平坦性や、重要な確率分布族である指数型分布族について説明してきた。本稿では確率分布のパラメータが成す空間の幾何学的な構造について不変性というキーワードからアプローチし、KLダイバージェンス…

情報幾何学を嗜む ~指数型分布族の幾何学~

前回の記事では双対平坦空間について説明した。これまでの記事では具体的な確率分布族は登場せず、ひたすら抽象的な議論が続いたが、いよいよ具体的な確率分布族について考えてみる。本稿では情報幾何学的に重要である指数型分布族に着目し、その幾何学的な…

情報幾何学を嗜む ~微分幾何学的な双対平坦空間の導入~

前回の記事ではBregmanダイバージェンスから導かれる双対空間について述べた。本稿ではこれらの空間に定められる双対接続、及びそこから導かれる双対平坦空間について考えてみる。基本的には本[1]を参考にしているのだが、この本はどうも双対平坦な空間の導…

情報幾何学を嗜む ~Bregmanダイバージェンスとその双対~

最近、情報幾何学の勉強をしている。情報幾何学は日本の甘利先生という方が切り開いてきた分野で、主には確率分布のパラメータが成す空間をリーマン多様体と捉えることで、確率分布族に対して幾何学的な解釈を与えるものである。情報幾何学は情報科学の一分…

クーポンコレクター問題の確率分布を解き明かす

クーポンコレクター問題というものをご存知だろうか?これは、例えば6種類のおもちゃが出るガシャポン*1があったとして、何回くらい引けば全種類引き当てる事ができるか?というようなことを考える問題である。この問題に対して、平均や分散がどうなるかとい…

いくつかのLie群がLie群であることを定義に戻って確かめる

Lie 群は難しい。この理由の1つは、議論の前提となる領域が広いことにあると思われる。Lie群とは群であり多様体であるような数学的対象である。そのため、定義を理解するだけで群論と多様体の知識が求められる。また、Lie群の教科書で最初に扱われるような基…