今こそJordan標準形と向き合う

線形代数を勉強して、Jordan標準形という言葉を耳にしたことがない人はいないだろう。Jordan標準形とは、ざっくり言えば行列の対角化を一般化したようなものである。行列の対角化はいつでもできるとは限らず、報われない行列たちが存在する。一方、Jordan標…

固有ベクトルの観点から線形変換を掌握する

線形代数において、固有値と固有ベクトルの話題は花形である。これらは理論的に美しいだけでなく、応用上様々な場面に登場し、重宝されている。中でも固有値が力を発揮するのは、やはり行列の対角化を行う時であろう。すなわち、n次正方行列がある条件を満た…

区間推定の理論と実践

統計学における推定の考え方は仮説検定と双璧を成す重要な理論であり、初学者がまず目指すべき最高到達点である。推定は強力な手法であるが故に、恐らく大抵の教科書では記載があるだろうし、ググればいくらでもWebページがヒットする。そんな状況下ではある…

確率分布族の再生性まとめ

確率分布はたくさんある 統計学を勉強していると、世の中には本当にたくさんの確率分布が存在する事に気付く。現実世界の現象に統計学を応用しようと考えるとき、その現象にはどのような確率分布が良く当てはまるのかを考えたくなる時がある。そのためには、…

中心極限定理と確率分布族の再生性

確率・統計の分野における定理と言えばいろいろあるが、中でも中心極限定理は有名だろう。ざっくり言えば、中心極限定理とはある確率分布に従う独立な確率変数をたくさん取り出すと、それらの和が従う確率分布は正規分布に近づいていくというものである。一…

モーメント母関数とTaylor展開の項別微分

最近、統計学を勉強している。統計学における重要な概念の1つとしてモーメント母関数がある。モーメント母関数とは簡単な計算を施すことで次々と重要な統計量が取得できる便利関数であるが、これは指数関数のTaylor展開と関係がある。本稿ではこれについて疑…

幾何平均の使いどころ

「平均」と言えば、算術平均 (=相加平均) の他に幾何平均 (=相乗平均) があるということをご存知の方は多いだろう。算術平均の方は意味が理解しやすく、使われる場面も多いと思われる。一方で、幾何平均はその意味するところが分かりづらく、一体どんな場…

5次方程式の解を巡る旅 〜5次方程式の可解性判定編〜

前回の記事で3次・4次方程式のresolventについて説明した。本稿ではここまでの内容を総括し、5次方程式の可解性判定について述べる。 5次方程式の可解性判定 5次方程式のresolvent 上の5次多項式に対して、方程式の可解性について考える。議論の流れに大きな…

5次方程式の解を巡る旅 〜3次・4次方程式のresolvent編〜

前回の記事で上の5次既約多項式のGalois群について調べた。本稿では実際に方程式を解くために必要となるresolventについて説明する。本当に知りたいのは5次方程式についてだが、前準備としてより低次元の方程式が解ける仕組みを理解しておくことは有用なので…

5次方程式の解を巡る旅 〜既約多項式のGalois群編〜

前回の記事で上の多項式の既約性を確実に判定できることが分かった。本稿からいよいよ本題である可解な5次方程式の話に入っていく。特に、本稿では既約な5次多項式のGalois群がどういう性質を持つのかについて記載しようと思う。 最小分解体とGalois群 f(x)…

5次方程式の解を巡る旅 〜多項式の既約性判定編〜

Galois理論活用の難しさ 一般の5次方程式に代数的な解の公式が存在しないというのは有名な事実である。これはGalois理論に深く関連する話題であるが、これ自体はGaloisによって証明されたものではない[1]。Galois理論の面白さは、代数方程式が解けるための条…

「リーマン積分<ルベーグ積分」という感覚を味わう

ルベーグ積分について調べていると、ルベーグ積分はリーマン積分より優れているという文面をよく見かける。これは恐らく事実なのだが、それを知るには両者を様々な観点から比較してみる必要があるだろう。そこで、本稿では特に基本的な2つの観点、すなわち、…

被積分関数、下から見るか、横から見るか

積分には大きく分けて2通りの方法がある。すなわち、リーマン積分とルベーグ積分である。リーマン積分は高校以来慣れ親しんでいる積分であり、また大学の初年度においてより厳密な取り扱いを学ぶ機会があるため、多くの方にとって積分と言えばリーマン積分を…

群が可解でないための位数の条件を炙り出す

可解でない群は珍しい? 群論を勉強していると可解群という概念が登場する。これはガロア理論において大活躍する極めて重要な群であり、群がどんな時に可解になるかというのは興味ある問題である。しかし、位数の小さい群を見ていると、どうにも可解でない群…

(-1)×(-1)=1の代数的な証明

中学校で初めて負の数の掛け算を習うとき、(-1)×(-1)=1が成立するという事実は、初見ではなかなか受け入れがたいことであろう。私が中学生の時、当時の数学の先生は日常的な感覚に訴えるような例を出しながら、定性的な説明をしてくれたことを記憶している。…

多様体の接空間を接続するということ

突然だが、Levi-Civita接続という言葉をご存知だろうか?この言葉は何だが不思議な語呂の良さがあり、私は以前Twitterで見かけて以来、この言葉を何となく覚えていた。しかし、いざ調べてみるとなかなか難しい概念で、一朝一夕では理解できないと感じていた…

リーマン計量の正体を暴く

最近、微分幾何学の勉強をしている。これは最終的に情報幾何学を理解するためである。情報幾何学ではFisher情報行列なるものがリーマン計量を定めるのであるが、そもそもリーマン計量がなんだかよく分からない。その他、いろいろと分からないことが多すぎて…

射影被覆は何を被覆しているのか

前回の記事で射影加群と移入加群を紹介したが、これに関連する概念として、射影被覆と移入包絡というものがある。これらがその名の通り、何かを被覆し、何かを包絡する性質を持っていると思うのは自然なことだろう。移入包絡は簡単である。詳しくは触れない…

Homとテンソル積が成す完全列に関するまとめ2

本稿は前回の記事の続きである。前回はHomの左完全性、及びテンソル積の右完全性について述べた。これらは常に成立しているのだが、Homの右完全性、及びテンソル積の左完全性は一般には成立しない。これらが成立するかどうかは、加群Mがどのような加群である…

Homとテンソル積が成す完全列に関するまとめ1

本稿ではHomとテンソル積が成す完全列と、その左完全性・右完全性、及びこれらに関する重要な加群についてまとめてみたいと思う。このあたりの内容は概念と概念の間の関係が複雑で、全容を把握することが難しいと感じたため、このようなまとめ記事を書いてみ…

今度こそテンソル積とHom の随伴性を理解する

長らく続いたテンソルに関する記事も、今回が最後である。今日は最初に掲げた4つの疑問のうち最後の1つである随伴性について考察する。以下に疑問の内容を再掲する。 テンソル積の随伴性とは一体何なのか? より正確には、テンソル積とHomの随伴性と呼ぶよう…

今度こそテンソルの共変・反変を理解する(高階のテンソル編)

本稿は前回の記事の続編である。前項では、最も基本的なテンソルであるベクトルの共変・反変について述べた。簡単におさらいすると、座標変換によって自然基底がどのように変換されるかを調べ、それと比較してベクトルの係数や双対基底の変化の仕方が同じか…

今度こそテンソルの共変・反変を理解する(ベクトル編)

はじめに 前回に引き続き、本稿でもテンソルについて考えてみたいと思う。本稿の目的は、前回掲げた4つの疑問のうち3つ目を解消することである。以下に疑問の内容を再掲する。 テンソルには共変テンソルと反変テンソルの2種類があるが、これらは何者なのか?…

今度こそテンソルを理解する

テンソルは難しい 理系の学部出身者であれば、テンソルという言葉を一度は聞いたことがあるだろう。そして、数学やら物理の専門に進むのでなければ、その意味の分からなさに絶望し、理解を放棄した経験があるという人は少なくないのではないかと推察する。少…

p進整数となる分数のp進展開

p進整数となる分数をどうp進展開するか 最近p進数について何度か記事を書いていく中で、ふと疑問に思ったことがある。例としての場合を考える。このとき、は5進整数である。なぜなら、5進付値が以下のように0以上になるからである。では、この数を5進展開す…

p進整数の可視化による逆極限とp進展開の橋渡し

本稿でも引き続きp進整数について述べる。前回の記事で逆極限によるp進整数の定義を述べた。本稿ではまずこれを視覚的に捉え、次いでp進展開との関係について述べる。 p進整数の定義おさらい まず、逆極限によるp進整数の定義を再掲しよう。剰余環と自然な全…

整数環とp進整数環の関係

p進数とは 今日は再び数論について書いてみる。トポロジーの勉強を始める前は数論の本(数論Ⅰ)を読んでいたのだが、これがどうにも消化しきれず、一旦停止していた。本稿では一読して理解しきれなかったトピックの1つであるp進整数について書いてみる。数論の…

ホモロジー群とその計算例

本稿では位相幾何学における基本的な量であるホモロジー群と、いくつかの図形に対するホモロジー群の計算例について述べる。 位相不変量としてのホモロジー群 位相幾何学では、図形を位相空間であると捉え、位相同型な空間同士は同じ図形であると考えるとい…

有限生成アーベル群の捩れがrankと無関係な理由

有限生成アーベル群のrank 今日もトポロジーの本を読んでいて得られた副次的な知見について書いてみたいと思う。それは、有限生成アーベル群のrankにまつわる話である。有限生成アーベル群の基本定理により、任意の有限生成アーベル群Gは以下の形の群と同型…

群の同型と剰余群の罠

先日トポロジーの本を読んでいたときに、私が剰余群について疑問に思ったことについて言及されている箇所があった。本稿ではそれについて書いてみたいと思う。 疑問 剰余群の最も簡単な例として、を考えてみよう。これが位数2の巡回群になるのは周知の通りで…