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多様体上での積分と一般化されたストークスの定理

数学

前回は微分形式について基礎知識を整理してみた。今回は微分形式の積分について考えてみたいと思う。

1次微分形式の積分

1次微分形式 \omega = f(x)dxについて、 \mathbb{R}のある区間 I = [a, b]での積分を以下のように定義する。

{ \displaystyle
\int_I \omega \overset{\mathrm{def}}{=} \int_a^b f(x)dx
}

この積分値は \mathbb{R}での座標の取り方に依らず決まるという重要な性質がある。つまり、変数変換をしても積分値は変わらないということである。ただし、積分する向きを逆にすると、符号が逆転してしまう。これらの事実は高校の数学で習うレベルであるが、高次の微分形式にも拡張される重要な性質であるため、ここで明示的に述べておく。

m次微分形式の積分

正方形領域に収まる場合

多様体Mの次元がmであるとする。このとき、m次微分形式 \omega積分について考えてみる*1 \omegaの値が0でないM上の領域の閉包を取ったものを \omegaの台と呼び、これを \mathrm{supp}(\omega)と書く。台の外では \omega = 0となるため、台が正方形領域と呼ばれる単純な領域に入っていれば、これは簡単に積分できる。正方形領域とは、参考書*2によれば、Mの座標近傍 (U; x_1, \cdots, x_m)について、以下のように表すことができる領域Vのことである。

{ \displaystyle
V = \{(x_1, \cdots, x_m) \in U | -a < x_i < a, i=1, \cdots, m\}
} *3

このとき、Uにおいて \omega = f(x_1, \cdots, x_m)dx_1 \land \cdots \land dx_mと表すことができるので、積分は以下のように定義できる。

{ \displaystyle
\int_M \omega \overset{\mathrm{def}}{=} \int_{-a}^a \cdots \int_{-a}^a f(x_1, \cdots, x_m)dx_1 \cdots dx_m
}

要するに、交代k次形式の記号 \landがなくなり、通常の重積分として定義される。

積分値はここでも正方形領域の取り方に依らずに決まる。しかし、1次微分形式のときと同じように、領域の「向き」によって符号が変わる。領域の向きというのは相対的な概念であるため、2つの領域に対して向きが同じだとか違うとかいう議論をすることになる。参考書では以下のように向きが定義されている。

2つの座標近傍 (U; x_1, \cdots, x_m) (U'; y_1, \cdots, y_m)が空でない共通部分をもつとする。共通部分 U \cap U'の各点で \frac{\partial(y_1, \cdots, y_m)}{\partial(x_1, \cdots, x_m)}>0がなりたつとき、 (U; x_1, \cdots, x_m) (U'; y_1, \cdots, y_m)は同じ向きであるという。

正方形領域に収まらない場合

上で考えたケースを拡張して、 \mathrm{supp}(\omega)が正方形領域に収まらない場合を考える。ここで、Mを「向き付けられた」コンパクトな多様体であるとする。多様体の中には、座標近傍系をうまく選ぶことで全ての座標近傍を同じ向きにすることができるものがある。このとき、その多様体を向き付け可能であるといい、向きを与えられた多様体を向き付けられた多様体と呼ぶ。コンパクト性の仮定はひょっとしたら厳しすぎるかもしれないが、その方が話が簡単になるので、ここでは参考書に合わせてコンパクトであると仮定しておく。

Mはコンパクトであるため、有限個の正方形領域 \{V_1, V_2, \cdots, V_s\}によって被覆される*4。このとき、 V_iに対応して f_iという関数をうまく選べば、m次微分形式 \omega積分は以下のように定義できる。

{ \displaystyle
\int_M \omega \overset{\mathrm{def}}{=} \sum^s_{i=1} \int_M f_i \omega
}

実は、 f_i多様体界隈で「1の分割」と呼ばれる関数である。1の分割とは、ざっくり言うと以下を満たすような関数の集合である。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
(\mathrm{i}) && 0 \le f_i \le 1 \\
(\mathrm{ii}) && \mathrm{supp}(f_i) \subset V_i \\
(\mathrm{iii}) && \sum^s_{i=1} f_i = 1
\end{eqnarray}
}

要するに、各正方形領域上での積分多様体全体でうまく繋げられるように、係数を調整しているのである。

このように定義される積分は、多様体Mと \omegaだけで決まり、有限被覆 \{V_1, V_2, \cdots, V_s\}や1の分割のとり方に依存しないという素晴らしい性質を持っている。

一般化されたストークスの定理

やっとこの話が書ける。ここまで長かった。

ストークスの定理という言葉は、ベクトル解析を学んだことがある人なら誰しも知っているだろう。また、似たような定理として、ガウスの発散定理なんてのもあったはずだ。これら2つの定理はどことなく雰囲気が似ている。どちらもある領域の積分が、その領域の境界の積分に置き換えられるというものである。これを多様体上で統一的にまとめたのが一般化されたストークスの定理である。これを使えば、ベクトル解析でのストークスの定理、及びガウスの発散定理を同じように扱うことができる。

細かい議論は置いておいて、まずは一般化されたストークスの定理の定義を以下に示す。

M上の任意の(m-1)次微分形式 \etaについて、次の等式がなりたつ。
{ \displaystyle
\int_N d\eta = \int_{\partial N} \eta
}
ここで、Nは向き付けられた多様体Mの「境界を持つ」部分多様体であり、かつコンパクトであるとする。

「境界を持つ多様体」とは、ざっくり言うとm次元多様体Mの中で、互いに交わらないいくつかの(m-1)次元多様体で区切られた部分のことである。また、その区切りを成す(m-1)次元多様体の和集合を境界と呼ぶ。3次元ユークリッド空間上の単位球を例に考えると、3次元空間における2次元部分多様体である単位球面によって区切られた球の内部が「境界を持つ多様体」であり、単位球面そのもののことを境界と呼ぶのである。

つまり、一般化されたストークスの定理とは、ある領域の境界上における(m-1)次微分形式の積分が、その微分形式の外微分を取ったものを領域全体で積分したものと等しいと言っているのである。

ベクトル解析におけるストークスの定理との比較

では、ベクトル解析におけるストークスの定理と比較してみよう。Sを積分領域となる2次元曲面、 \partial Sをその境界とすると、ストークスの定理とは以下の等式が成り立つことを主張するものであった。

{ \displaystyle
\int \int_S \mathrm{rot} {\bf F} \cdot d{\bf S} = \oint_{\partial S} {\bf F} \cdot d{\bf r}
}

ここで、もし d({\bf F} \cdot d{\bf r}) = \mathrm{rot} {\bf F} \cdot d{\bf S}が示せれば、これは確かに一般化されたストークスの定理で表すことができることになる。

 {\bf F} = (F_x, F_y, F_z), d{\bf r} = (dx, dy, dz)として右辺の積分の中身の内積を計算すると、以下のようになる。

{ \displaystyle
{\bf F} \cdot d{\bf r} = (F_x, F_y, F_z) \cdot (dx, dy, dz) = F_x dx + F_y dy + F_z dz
}

よって右辺は1次微分形式となっている。さらに、これの外微分を計算すると以下のようになる。

{ \displaystyle
d(F_x dx + F_y dy + F_z dz) = dF_x \land dx + dF_y \land dy + dF_z \land dz
}

 dF_xは通常の微分積分学における全微分に一致し、以下のように書ける。

{ \displaystyle
dF_x = \frac{\partial F_x}{\partial x}dx + \frac{\partial F_x}{\partial y}dy + \frac{\partial F_x}{\partial z}dz
}

 F_y, F_zも同様である。これを利用すると、結局以下のように計算できる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
&& dF_x \land dx + dF_y \land dy + dF_z \land dz \\
&=& \left(\frac{\partial F_x}{\partial x}dx + \frac{\partial F_x}{\partial y}dy + \frac{\partial F_x}{\partial z}dz \right) \land dx  \\
&& + \left(\frac{\partial F_y}{\partial x}dx + \frac{\partial F_y}{\partial y}dy + \frac{\partial F_y}{\partial z}dz \right) \land dy  \\
&& + \left(\frac{\partial F_z}{\partial x}dx + \frac{\partial F_z}{\partial y}dy + \frac{\partial F_z}{\partial z}dz \right) \land dz  \\
&=& \frac{\partial F_x}{\partial y}dy \land dx + \frac{\partial F_x}{\partial z}dz \land dx \\
&& + \frac{\partial F_y}{\partial x}dx \land dy + \frac{\partial F_y}{\partial z}dz \land dy \\
&& + \frac{\partial F_z}{\partial x}dx \land dz + \frac{\partial F_z}{\partial y}dy \land dz \\
&=& \left(\frac{\partial F_z}{\partial y} - \frac{\partial F_y}{\partial z} \right)dy \land dz
   + \left(\frac{\partial F_x}{\partial z} - \frac{\partial F_z}{\partial x} \right)dz \land dx
   + \left(\frac{\partial F_y}{\partial x} - \frac{\partial F_x}{\partial y} \right)dx \land dy
\end{eqnarray}
}

美しい対称形の2次微分形式が得られた。

次に、左辺の積分の中身について考えてみる。まずrotの部分について以下のように計算できる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mathrm{rot}{\bf F} &=& \nabla \times {\bf F} \\
&=& \left( \frac{\partial F_z}{\partial y} - \frac{\partial F_y}{\partial z},
           \frac{\partial F_x}{\partial z} - \frac{\partial F_z}{\partial x},
           \frac{\partial F_y}{\partial x} - \frac{\partial F_x}{\partial y} \right)
\end{eqnarray}
}

次に、面積素 d{\bf S}について考える。詳細は割愛するが(追記1参照)、S上に(u, v)という2次元の座標を考えることで、これは以下のように変形できる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
d{\bf S} &=& \left(\frac{\partial(y, z)}{\partial(u, v)}dudv, \frac{\partial(z, x)}{\partial(u, v)}dudv, \frac{\partial(x, y)}{\partial(u, v)}dudv \right) \\
&=& (dy \land dz, dz \land dx, dx \land dy)
\end{eqnarray}
}

よって両者の内積を計算すれば、 d({\bf F} \cdot d{\bf r}) = \mathrm{rot} {\bf F} \cdot d{\bf S}が成立することが分かる。以上により、ベクトル解析におけるストークスの定理は、多様体上での一般化されたストークスの定理に含まれることが分かった。

ガウスの発散定理との比較

同じことをガウスの発散定理でもやってみよう。定理の主張を以下に示す。

{ \displaystyle
\int \int \int_V \mathrm{div} {\bf F} dV = \int \int_{S} {\bf F} \cdot d{\bf S}
}

先ほどと同様に、 d({\bf F} \cdot d{\bf S}) = \mathrm{div} {\bf F} dVが示せればよい。

右辺の積分の中身は以下のようになる。

{ \displaystyle
{\bf F} \cdot d{\bf S} = F_x dy \land dz + F_y dz \land dx + F_z dx \land dy
}

これの外微分を計算すると以下のようになる。

{ \displaystyle
d(F_x dy \land dz + F_y dz \land dx + F_z dx \land dy) = \left(\frac{\partial F_x}{\partial x} + \frac{\partial F_y}{\partial y} + \frac{\partial F_z}{\partial z} \right)
dx \land dy \land dz
}

途中計算は面倒なので割愛した。右辺についても、ストークスの定理の場合と同じように計算することで、結局 d({\bf F} \cdot d{\bf S}) = \mathrm{div} {\bf F} dVであることが示せる*5。よって、ガウスの発散定理も一般化されたストークスの定理に含まれる。

まとめ

今回は多様体上での積分と、そこで成立する一般化されたストークスの定理について述べた。多様体上での積分についてはまだ面白い話があるが、それはまた次回に回そう。

追記1

実は本稿を書いた時点では、なぜ面積素が微分形式で書き表されるのかよく分かっていなかった。これに関して少しだけ理解を得たので書いてみようと思う。

まず、面積素は以下のように定義される。

{ \displaystyle
d{\bf S} = \left(\frac{\partial {\bf r}}{\partial u} \times \frac{\partial {\bf r}}{\partial v} \right) dudv = \left(\frac{\partial(y, z)}{\partial(u, v)}dudv, \frac{\partial(z, x)}{\partial(u, v)}dudv, \frac{\partial(x, y)}{\partial(u, v)}dudv \right)
}

一方、k次微分形式の定義式から、ベクトル {\bf p} = a{\bf e}_x + b{\bf e}_y + c{\bf e}_z,  {\bf q} = i{\bf e}_x + j{\bf e}_y + k{\bf e}_zに対して以下のような計算ができる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
&& dx \land dy ({\bf p}, {\bf q}) = \mathrm{det}\left(
    \begin{array}{cc}
      dx({\bf p}) & dx({\bf q}) \\
      dy({\bf p}) & dy({\bf q})
    \end{array}
  \right)
  = \mathrm{det}\left(
    \begin{array}{cc}
      a & i \\
      b & j
    \end{array}
  \right) \\
&& dy \land dz ({\bf p}, {\bf q}) = \mathrm{det}\left(
    \begin{array}{cc}
      dy({\bf p}) & dy({\bf q}) \\
      dz({\bf p}) & dz({\bf q})
    \end{array}
  \right)
  = \mathrm{det}\left(
    \begin{array}{cc}
      b & j \\
      c & k
    \end{array}
  \right) \\
&& dz \land dx ({\bf p}, {\bf q}) = \mathrm{det}\left(
    \begin{array}{cc}
      dz({\bf p}) & dz({\bf q}) \\
      dx({\bf p}) & dx({\bf q})
    \end{array}
  \right)
  = \mathrm{det}\left(
    \begin{array}{cc}
      c & k \\
      a & i
    \end{array}
  \right)
\end{eqnarray}
}

ここで、ベクトル {\bf p}, {\bf q}を以下のように定めてみる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
{\bf p} &=& \left(\frac{\partial x}{\partial u}du, \frac{\partial y}{\partial u}du, \frac{\partial z}{\partial u}du \right) \\
{\bf q} &=& \left(\frac{\partial x}{\partial v}dv, \frac{\partial y}{\partial v}dv, \frac{\partial z}{\partial v}dv \right)
\end{eqnarray}
}

すると、上述の式は以下のようになる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
&& dx \land dy ({\bf p}, {\bf q}) = \mathrm{det}\left(
    \begin{array}{cc}
      \frac{\partial x}{\partial u}du & \frac{\partial x}{\partial v}dv \\
      \frac{\partial y}{\partial u}du & \frac{\partial y}{\partial v}dv
    \end{array}
  \right)
  = \frac{\partial(x, y)}{\partial(u, v)}dudv \\
&& dy \land dz ({\bf p}, {\bf q}) = \mathrm{det}\left(
    \begin{array}{cc}
      \frac{\partial y}{\partial u}du & \frac{\partial y}{\partial v}dv \\
      \frac{\partial z}{\partial u}du & \frac{\partial z}{\partial v}dv
    \end{array}
  \right)
  = \frac{\partial(y, z)}{\partial(u, v)}dudv \\
&& dz \land dx ({\bf p}, {\bf q}) = \mathrm{det}\left(
    \begin{array}{cc}
      \frac{\partial z}{\partial u}du & \frac{\partial z}{\partial v}dv \\
      \frac{\partial x}{\partial u}du & \frac{\partial x}{\partial v}dv
    \end{array}
  \right)
  = \frac{\partial(z, x)}{\partial(u, v)}dudv \\
\end{eqnarray}
}

上記3式の最後の式変形は、行列式の多重線形性による。

以上により、面積素は以下のようになる。

{ \displaystyle
d{\bf S} = (dy \land dz({\bf p}, {\bf q}), dz \land dx({\bf p}, {\bf q}), dx \land dy({\bf p}, {\bf q}))
}

あとは ({\bf p}, {\bf q})の部分は暗黙的に付加されるものと考えて省略すれば、本文中の式が得られる。

参考

多様体の基礎 (基礎数学5)

多様体の基礎 (基礎数学5)

微分形式 - [物理のかぎしっぽ]
ストークスの定理

*1:mより小さい次元での積分も、包含写像による部分多様体への引き戻しを駆使すれば定義することができる。

*2:多様体の基礎」のことを指す。

*3:参考書にはiの値は1からkまでと書かれているが、恐らく間違いだと思われる。

*4:コンパクトなので、無限被覆であろうとなんであろうと、正方形領域によって被覆することさえできれば、そこから有限個の被覆を選ぶことができる。しかし、たとえ無限被覆であろうと、任意のコンパクトな多様体を正方形領域だけで被覆できるという事実は、そんなに自明なのであろうか?

*5:一日中計算式を追っていて疲れてしまったorz