スカラーポテンシャル・ベクトルポテンシャルと微分形式の外微分の関係

今日も微分形式について書きたいと思う。本当は線積分周りのことを書いて多様体の話は一旦終わろうと思ったのだが、それはまた後に回して、ここではベクトル解析の式がまたしても微分形式により一般化される別の事例について書きたいと思う。

スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルが満たす関係式

今日の主役ははベクトル解析で有名な以下の2つの式である。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
&& \mathrm{rot}\, \mathrm{grad}\, f = 0 \\
&& \mathrm{div}\, \mathrm{rot}\, {\bf A} = 0
\end{eqnarray}
}

ここで、 fスカラー関数、 {\bf A}はベクトルである。 f, {\bf A}がこれらの式を満たすとき、それぞれスカラーポテンシャル、ベクトルポテンシャルと呼ばれる。詳細はベクトル解析の教科書等を参照して頂きたい。

微分による表現

上で述べた関係式は、微分形式に対する外微分を用いて統一的に表すことができる。本稿ではそれについて説明する。しかし、残念ながら私はそれについて100%納得するところまで理解が進んでいない。以下では私が理解したこと、及び納得できていないことについて書き記す。

微分形式の双対構造

本題に入る前に、後で必要になる微分形式の双対構造について説明しておこう。

以下では3次までの微分形式に限定して話を進める。すると、全ての微分形式は以下に示すものの線形結合で表現できる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
&& 1 \\
&& dx \\
&& dy \\
&& dz \\
&& dx \land dy \\
&& dy \land dz \\
&& dz \land dx \\
&& dx \land dy \land dz
\end{eqnarray}
}

例として dx \land dyに着目してみよう。これはdxとdyの外積になっているわけだが、3次以下の微分形式にはdx, dy, dzの3つの要素しか登場し得ないので、これは逆に言えばdzが欠けていると考えることができる。このように、上に示した微分形式は、お互いを補いあう関係にあるペアに分けることができる。以下にそれを示す。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
1 &\leftrightarrow& dx \land dy \land dz \\
dx &\leftrightarrow& dy \land dz \\
dy &\leftrightarrow& dz \land dx \\
dz &\leftrightarrow& dx \land dy
\end{eqnarray}
} *1

すなわち、微分形式には相補的な双対構造が現れるのである。ある微分形式の双対を示す演算子を一般に*で示し、これをホッジのスター作用素と呼んだりする。以下にホッジのスター作用素の使用例を示す。

{ \displaystyle
\ast dx = dy \land dz
}

また、以下の式が成立することにも言及しておこう。

{ \displaystyle
\ast \ast dx = dx
}

微分の外微分

最初に示した2つの式は、微分形式を用いて統一的に表すことができるわけだが、その時に使う式が以下である。

{ \displaystyle
d(d\omega) = 0
}

ここで、 \omegaは適当な微分形式である。すなわち、微分形式の外微分の外微分は必ず0になるのだ。ここで最初に示した2つの式を見ると、どちらも2回の演算の結果が0になっており、いかにもこの式と関係がありそうな予感がするだろう。

grad, rot, divと外微分の関係

ここから本題に入っていこう。まずは、grad, rot, divがそれぞれ微分形式の外微分とどのような関係にあるか考えてみる。

最初にgradについて考えよう。関数fについて、 \mathrm{grad}\, fは以下のように書けるのであった。

{ \displaystyle
\mathrm{grad}\, f = \frac{\partial f}{\partial x} {\bf e}_x + \frac{\partial f}{\partial y} {\bf e}_y + \frac{\partial f}{\partial z} {\bf e}_z
}

ここで、 {\bf e}_x, {\bf e}_y, {\bf e}_zはそれぞれx, y, z方向の単位ベクトルである。

今、gradを外微分を用いて表すことを考えてみる。まず、0次微分形式fに対する外微分dfは以下のような1次微分形式になる。

{ \displaystyle
df = \frac{\partial f}{\partial x}dx + \frac{\partial f}{\partial y}dy + \frac{\partial f}{\partial z}dz
}

ここからがまさに私が納得できていないポイントであるが、上記2つの式において、大胆にも {\bf e}_x, {\bf e}_y, {\bf e}_zをそれぞれdx, dy, dzと同一視すれば、 \mathrm{grad}\, f = dfとなる。すなわち、 \mathrm{grad} = dである。被演算子は0次微分形式である。この同一視の妥当性については後述する。

次にrotについて考える。これは以下のように表されるのであった。

{ \displaystyle
\mathrm{rot}\, {\bf A} = \left(\frac{\partial A_z}{\partial y} - \frac{\partial A_y}{\partial z} \right) {\bf e}_x + 
                         \left(\frac{\partial A_x}{\partial z} - \frac{\partial A_z}{\partial x} \right) {\bf e}_y + 
                         \left(\frac{\partial A_y}{\partial x} - \frac{\partial A_x}{\partial y} \right) {\bf e}_z

}

ここでは {\bf A} = (A_x, A_y, A_z)という3次元ベクトルを用いた。ここでもgradと同じようにrotを外微分で表すことを考えてみよう。前回の記事で登場した以下の式が使えそうだ。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
&& d(A_x dx + A_y dy + A_z dz) \\
&=& dA_x \land dx + dA_y \land dy + dA_z \land dz \\
&=& \left(\frac{\partial A_z}{\partial y} - \frac{\partial A_y}{\partial z} \right)dy \land dz
   + \left(\frac{\partial A_x}{\partial z} - \frac{\partial A_z}{\partial x} \right)dz \land dx
   + \left(\frac{\partial A_y}{\partial x} - \frac{\partial A_x}{\partial y} \right)dx \land dy
\end{eqnarray}
}

gradと同じ流れで行くと、ここで単位ベクトルとdx, dy, dzを同一視するところだが、今はこれらの外積である dx \land dyなどが現れてしまっている。そのため、このままでは先ほどのような同一視ができない。また、外積とは言うものの、これはベクトルの外積とは異なる演算であるため、そのような置き換えもできない。

そこで、ホッジのスター作用素の登場である。上記の式にホッジのスター作用素を適用すると以下のようになる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
&& \ast d(A_x dx + A_y dy + A_z dz) \\
&=& \left(\frac{\partial A_z}{\partial y} - \frac{\partial A_y}{\partial z} \right)dx
   + \left(\frac{\partial A_x}{\partial z} - \frac{\partial A_z}{\partial x} \right)dy
   + \left(\frac{\partial A_y}{\partial x} - \frac{\partial A_x}{\partial y} \right)dz
\end{eqnarray}
}

これで、最初のrotの式との対応が見えた。すなわち、 \mathrm{rot}\, {\bf A} = \ast d {\bf A}であり、結局 \mathrm{rot} = \ast dとなる。被演算子は1次微分形式である。

最後にdivであるが、これは上の2つと同様に考えることができるため説明は割愛する。結論としては \mathrm{div} = \ast d \astとなる。被演算子は1次微分形式である。

以上により、grad, rot, divをそれぞれ外微分とホッジのスター作用素で書き表すことができた。

得られる結果

これでやっと冒頭の2式と外微分との関係を見ることができる。まず、スカラーポテンシャルの方から見てみよう。

{ \displaystyle
\mathrm{rot}\, \mathrm{grad}\, f = \ast d(df) = 0
} *2

ホッジのスター作用素が頭に付いてしまってはいるが、見事に微分形式の外微分によって表すことができた。

次はベクトルポテンシャルの式を見てみよう。これは以下のようになる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mathrm{div}\, \mathrm{rot}\, {\bf A} &=& \ast d \ast (\ast d {\bf A}) \\
                                      &=& \ast d(d {\bf A}) \\
                                      &=& 0
\end{eqnarray}
}

これにより、両者を全く同じ式 \ast d(d \omega) = 0という形で表すことができた。以上が本稿で述べたかった事実である。

なぜ単位ベクトルをdx, dy, dzと同一視してよいのか

本稿の説明においては、単位ベクトルとdx, dy, dzを同一視することで、ベクトルを微分形式で表現していた。これは妥当なのであろうか?本稿最下部に示した参考ページの冒頭において、それについて少し触れられている。すなわち、dx, dy, dzをベクトルに対する演算子として見ればよいというのである。例えば {\bf p} = a{\bf e}_x + b{\bf e}_y + c{\bf e}_zというベクトルが与えられたとき、dxはこのベクトルのx軸方向の成分、すなわち単位ベクトル {\bf e}_xの係数を取り出す演算子と考えるのである。以下に演算の様子を示す。

{ \displaystyle
dx({\bf p}) = a
}

一方、このようにx方向の成分を取り出すには以下のようにしてもよい。

{ \displaystyle
{\bf e}_x \cdot {\bf p} = a
}

この2つの式の類似性から、dxを {\bf e}_xと同一視することを正当化しようというのである。

これは確かに最もらしい説明である。dxの元々の定義も T_p(M) \to \mathbb{R}という線形写像であり、これを演算子と考えることは自然に思える。しかし、今はユークリッド空間を考えているので、接ベクトル空間の基底 \left(\left(\frac{\partial}{\partial x}\right)_p, \left(\frac{\partial}{\partial y}\right)_p, \left(\frac{\partial}{\partial z}\right)_p \right)はそれぞれ {\bf e}_x, {\bf e}_y, {\bf e}_zと同一視できる。これはつまり、接ベクトル空間と余接ベクトル空間の基底がどちらも同じだと言っているように聞こえる。これにはなんだか違和感を覚える。なぜなら、ベクトル空間とその双対空間はそもそも集合として全く異なるものだからだ。今回の話でここだけが唯一スッキリしないのである。

とは言え、概ね綺麗な結果を得ることができたという点には満足している。やはり微分形式から得られる帰結は美しい。疑問は残ったものの、それは長い人生の中できっと答えが見つかるだろう。


参考

http://mkdragon.la.coocan.jp/studies/relative/dform.pdf

*1:例えば dx \land dy dy \land dxは符号が異なるので、本当は外積の順序について慎重に考える必要がある。

*2: \ast 0 = 0としている。