多様体の接空間を接続するということ

突然だが、Levi-Civita接続という言葉をご存知だろうか?この言葉は何だが不思議な語呂の良さがあり、私は以前Twitterで見かけて以来、この言葉を何となく覚えていた。しかし、いざ調べてみるとなかなか難しい概念で、一朝一夕では理解できないと感じていた。

最近、ついにこのLevi-Civita接続について一定の理解を得たので、自身の知識整理を兼ねて、理解したことをまとめてみることにする。

なお、本稿ではアインシュタインの縮約記法を使っているので注意されたい。

また、本稿は全体的に資料[1]を参考に記載している。

方向微分から共変微分

関数の方向微分

多様体Mにおいて、ベクトル場に沿った関数の方向微分を考えてみる。「ベクトル場に沿った」とは言っても、ある1つの点に着目すれば、結局これはその点に割り当てられたベクトルに対する方向微分を考えてみようと言っているだけである。

ある局所座標系 \{x_1, x_2, \cdots, x_n\}について、ベクトル場 {\bf X} = X^i \frac{\partial}{\partial x_i}が与えられているとする。このとき、ある1点 p \in Mを通る滑らかな曲線 {\bf x}(t)  (-\epsilon < t < \epsilon,\ \epsilon \in \mathbb{R})を考える。ただし、 {\bf x}(t)=pとする。この曲線をtについて微分した値がpにおいてベクトル場 {\bf X}と一致するように {\bf x}(t)が取られているとする。すなわち、 {\bf X}の各成分について以下が成立しているとする。

 \displaystyle{
X^i({\bf x}(0)) = \frac{dx^i}{dt} (0)
}

このとき、fをM上の任意の微分可能な関数とすると、 {\bf X}に沿ったfの方向微分は以下の式で表される。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
\nabla_{{\bf X}} f &=& \left. \frac{d}{dt} f({\bf x}(t)) \right|_{t=0} \\
                   &=& \frac{\partial f}{\partial x^i} \frac{d x^i}{dt}(0) \\
                   &=& X^i({\bf x}(0)) \frac{\partial f}{\partial x^i} \\
\end{eqnarray}
}

Mの各点においてこのような方向微分を考えることができるので、結局以下が成立する。

 \displaystyle{
\nabla_{{\bf X}} f = X^i \frac{\partial f}{\partial x_i}
}

この方向微分は以下の3つの性質を持つ。

  1.  \nabla_{{\bf X}} (af + bg) = a\nabla_{{\bf X}} f + b\nabla_{{\bf X}} g ( a, b \in \mathbb{R})
  2.  \nabla_{c{\bf X}+d{\bf Y}} f = c\nabla_{{\bf X}} f + d\nabla_{{\bf Y}} f ( c, d \in \mathbb{R})
  3.  \nabla_{{\bf X}} (fg) =  g \nabla_{{\bf X}} f + f\nabla_{{\bf X}} g

すなわち、与えられたベクトル場と関数について線形であり、かつLeibnitz則が成立する。ただし、f, gはM上の任意の微分可能な関数である。

ベクトル場の方向微分における問題

これと同様に、今度はベクトル場に沿ったベクトル場の方向微分というものを考えてみる。微分する方向を定めるベクトル場を {\bf X}微分されるベクトル場を {\bf Y}とする。このとき、ベクトル場 {\bf Y}は、Mの各点pにおける接空間 T_p(M)から1つずつベクトルを選び、その点に割り当てることで構成される。

このベクトル場の微分を先ほどと同じように行うことを考えてみよう。このとき、微小な曲線 {\bf x}(t)を取るところまではよいのだが、その後の微分操作で、微小距離だけ離れたベクトルの差を取る必要がある。しかし、微小距離だけ離れた点とは言え、異なる点に割り当てられたベクトルは異なる接空間の元であるため、これらを単純に比較することはできない。つまり、関数の場合と同じように考えて微分することはできないのである。

共変微分

そこで、2つの異なる接空間に属するベクトルを比べることなく、ベクトル場に対しても方向微分のような演算を定義することを考える。すなわち、方向微分が満たしていた性質を満たすような抽象的な写像として、ベクトル場に沿ったベクトル場の方向微分のような演算を形式的に考えるのである。すなわち、以下の3つの性質を満たすような写像 M \to (T_p(M) \times T_p(M) \to T_p(M))を考える。

  1.  \nabla_{{\bf X}} (a{\bf Y} + b{\bf Z}) = a\nabla_{{\bf X}} {\bf Y} + b\nabla_{{\bf X}} {\bf Z} ( a, b \in \mathbb{R})
  2.  \nabla_{f{\bf X}+g{\bf Y}} {\bf Z} = f\nabla_{{\bf X}} {\bf Z} + g\nabla_{{\bf Y}} {\bf Z}
  3.  \nabla_{{\bf X}} (f{\bf Y}) =  {\bf Y} \nabla_{{\bf X}} f + f\nabla_{{\bf X}} {\bf Y}

このように定義される写像を共変微分と呼ぶ。

共変微分が与えられると、後に示すように多様体の異なる点における接空間の接続が決まるので、これを接続と呼ぶこともある。より正確には、ベクトル場 {\bf X}に対して接続 \nablaが与えられた時、演算 \nabla_{\bf X}を共変微分と呼ぶようである[2]。特に、上の条件で定められる接続をアフィン接続と呼ぶ。

共変微分の計算

このようにして与えられた共変微分の定義は抽象的で、このままでは具体的な計算方法が分からないように見える。しかし、与えられた3つの性質に基づいて計算を進めると、これだけでも案外いろいろな事が分かる。

ということで、 {\bf X} = X^i \partial_i {\bf Y} = Y^i \partial_iについて共変微分を計算して見よう。ただし、 \partial_i = \frac{\partial}{\partial x_i}と略記する。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
\nabla_{{\bf X}} {\bf Y} &=& \nabla_{X^i \partial_i} (Y^j \partial_j) \\
&=& X^i \nabla_{\partial_i} (Y^j \partial_j) \\
&=& X^i \left(\nabla_{\partial_i}(Y^j) \partial_j + Y^j \nabla_{\partial_i} \partial_j \right) \\
&=& X^i \left(\frac{\partial Y^j}{\partial x_i} \partial_j + Y^j \nabla_{\partial_i} \partial_j \right)
\end{eqnarray}
}

ここで、 \nabla_{\partial_i} \partial_jも各点における接空間の元なので、以下のように基底の線形結合で表すことができる。

 \displaystyle{
\nabla_{\partial_i} \partial_j = \Gamma^{k}_{ij} \partial_k
}

ここで、基底の係数 \Gamma^{k}_{ij}をクリストッフェル記号という。

すると、先ほどの共変微分の式は以下のようになる。

 \displaystyle{
\nabla_{{\bf X}} {\bf Y} = X^i \left(\frac{\partial Y^j}{\partial x_i} \partial_j + Y^j \Gamma^{k}_{ij} \partial_k \right)
}

 \frac{\partial Y^j}{\partial x_i} \partial_j = \frac{\partial Y^k}{\partial x_i} \partial_kとインデックスを付け替えると、結局以下のようになる。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
\nabla_{{\bf X}} {\bf Y} &=& X^i \left(\frac{\partial Y^k}{\partial x_i} \partial_k + Y^j \Gamma^{k}_{ij} \partial_k \right) \\
&=& X^i \left(\frac{\partial Y^k}{\partial x_i}  + Y^j \Gamma^{k}_{ij} \right) \partial_k
\end{eqnarray}
}

共変微分(アフィン接続)の定義から計算できるのはここまでである。これを見ると分かるように、共変微分の定義だけではクリストッフェル記号の値が完全には決まり切らない。そのため、アフィン接続は無数に存在することになる。

Levi-Civita接続

このままではどのアフィン接続を用いたら良いのか分からない。無数にあるアフィン接続のうち、何か突出した性質を持つものはないものだろうか?実は、以下のような条件を満たす接続は一意に決まることが知られている。

  1.  \nabla_{{\bf X}} {\bf Y} - \nabla_{{\bf Y}} {\bf X} = [{\bf X}, {\bf Y}] (対称な接続)
  2.  \nabla_{{\bf X}} g({\bf Y}, {\bf Z}) =  g(\nabla_{{\bf X}}{\bf Y}, {\bf Z}) + g({\bf Y}, \nabla_{{\bf X}}{\bf Z})内積との整合性)

ただし、 [{\bf X}, {\bf Y}]はリーブラケット[3]であり、 g({\bf Y}, {\bf Z})などはリーマン計量gによる内積を表す。

私も詳しくは理解しきれていないが、最初の条件は局所座標系を指定すれば \Gamma^{k}_{ij} = \Gamma^{k}_{ji}と同値であり、クリストッフェル記号の下付きの添字の対称性を表している。2番目の条件については後述する。

このようにして決まる接続のことをLevi-Civita接続と呼ぶ。Levi-Civita接続においては、クリストッフェル記号は以下の式により一意に定まる。

 \displaystyle{
\Gamma^{i}_{mk} = \frac{1}{2} g^{ij} \left(\frac{\partial g_{jm}}{\partial x^k} + \frac{\partial g_{jk}}{\partial x^m} - \frac{\partial g_{mk}}{\partial x^j} \right)
}

ここで、右辺の g^{ij}は計量テンソル逆行列の(i, j)成分を表す。

ベクトルの平行移動による接空間の接続

ここまでの議論で、内積、すなわちリーマン計量と整合性のある接続として、一意なLevi-Civita接続が得られる事が分かった。しかし、名前こそ接続となっているものの、これが一体何と何をどう接続しているのかがまだ分からない。

そこで、最後にLevi-Civita接続の接続っぽさを味わってみよう。

本稿のタイトルにもあるように、接続されるのは異なる2つの接空間同士である。接空間を接続するということの意味は、ある接空間におけるベクトルを、もう一方の接空間上のベクトルに対応付ける方法を与えるということである。問題は、そのような対応をどのように与えるかである。

これは、多様体上の曲線に沿ったベクトルの平行移動によって与えられる。すなわち、多様体M上の2点p, qをつなぐ滑らかな曲線を c(t)\ (0 \le t \le t_0)とし、 c(0)=p,  c(t_0)=qとする。また、c(t)の接線方向のベクトルをc(t)上の各点に割り当てたベクトル場を {\bf v}とする。このとき、ベクトル場 {\bf X} {\bf v}に沿った共変微分 \nabla_{{\bf v}} {\bf X}が0になるとき、c(t)上の各点に割り当てられた {\bf X}のベクトルは互いに平行であると言う。

共変微分が0になるようなベクトルの移動を平行移動と定義する心は、その移動によりベクトルが変化せず、ある意味で定数的な振る舞いをするというところから来ているようである[4]。

平行移動によって移り合うベクトルは、実際にはM上の異なる点における接空間の元であるが、平行移動を用いてそれらを同一視することで、ベクトルを曲線に沿って別の接空間にmappingすることができる。これこそが、接続が接続と呼ばれる所以である。

さて、実はここまでの話はアフィン接続でも全く同じことが言える。これがLevi-Civita接続になると、さらにベクトルの長さが平行移動によって変化しないという条件が付き、より我々がユークリッド幾何学で培ってきた直感にマッチする形になるのである。この性質はLevi -Civita 接続の2番目の条件により生じるものであるが、詳しくはテンソル場に対する共変微分という概念が必要なようで、残念ながら今の私のレベルでは説明できない。

まとめ

以上、Levi-Civita接続とその周辺事項に関する私の理解をまとめてみた。「どこかで聞いたことがあるが、それが何なのか分からない」というところから知識を増やしていくのは、なかなか楽しい学習戦略である。