5次方程式の解を巡る旅 〜既約多項式のGalois群編〜

前回の記事 \mathbb{Q}上の多項式の既約性を確実に判定できることが分かった。本稿からいよいよ本題である可解な5次方程式の話に入っていく。特に、本稿では既約な5次多項式のGalois群がどういう性質を持つのかについて記載しようと思う。

最小分解体とGalois群

f(x)を \mathbb{Q}上の既約多項式とする。 \mathbb{Q}上既約なので、f(x)は \mathbb{Q}上ではこれ以上因数分解できない。しかし、体を適切に拡大すれば因数分解できるようになる。例えば、思い切って \mathbb{C}まで拡大すれば因数分解可能となる。

しかし、多くの場合そこまで体を拡大せずとも、もっと小さい体で因数分解できるようになる。実際、因数分解ができるようになる最小の拡大体というものが存在し、これをf(x)の最小分解体という。以下、これをLと表すことにする。

Lを具体的に得るのは簡単で、単にf(x)の根を全て \mathbb{Q}に添加すればよい。すなわち、f(x)の根を  \alpha_1, \alpha_2, \cdots , \alpha_nとすれば、 L = \mathbb{Q}(\alpha_1, \alpha_2, \cdots , \alpha_n)となる。

 \mathbb{Q}からLへの拡大はGalois拡大である。これは自明ではなく証明が必要と思われるが、ここでは割愛する。Galois拡大とその中間体には、Galois群とその部分群が1対1で対応し、これをGalois対応と呼ぶ。Galois群とはLの \mathbb{Q}自己同型群のことであり、これはf(x)の根の置換と捉えることができる。そのため、Galois群は対称群やその部分群と同型になる[1]。

一般の5次多項式の場合では、最小分解体に対応するGaloisが5次対称群 S_5となる。これが可解群ではないために、根を代数的に表示することができないのであった。

推移的なGalois群

既約多項式のGalois群は1つ特徴的な性質を持っている。それは、作用が推移的になるということである。推移的な作用の定義を[2]より引用する。

推移的な作用
群Gが集合Xに作用するとする.
(中略)
 x \in Xがあり,  Gx = Xとなるとき, この作用は推移的であるという.

作用が推移的な群のことを可移群とかtransitive groupなどと呼ぶようである。

先ほど述べたように5次方程式のGalois群は5次対称群、もしくはその部分群と同型になるわけだが、そのうち作用が推移的なものはどれくらいあるのだろうか?実は、これは共役を除いて以下の5つしか存在しないことが知られている[3][4]。

名称 記号 位数 共役な部分群の数
対称群  S_5 120 1
交代群  A_5 60 1
Frobenius群  F_{20} 20 6
二面体群  D_{5} 10 6
巡回群  C_5 5 6

上に示した5つの群の性質を見てみよう。まず、以下の2つの正規列を作ることができる。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
&& 1 \lhd A_5 \lhd S_5 \\
&& 1 \lhd C_{5} \lhd D_5 \lhd F_{20}
\end{eqnarray}
}

 S_5,\ A_5が可解群でないことは有名であるが、実は F_{20},\ D_{5},\ C_5は可解群となる。これより、5次の既約多項式f(x)について、 f(x)=0という方程式が代数的に解けるための必要十分条件は、Galois群が F_{20}に含まれることだと言える。これについては次回以降詳しく述べることにする。

Frobenius群とは

上で挙げた5つの群のうち、Frobenius群 F_{20}だけ馴染みがないという方は多いのではないだろうか?何を隠そう私自身も本件の調査をするまで知らなかった。そこで、本格的な可解性の議論に入る前に、Frobenius群の性質について調べてみたいと思う。

定義

まず、定義を[5]より引用する。

Frobenius群
Let G be a finite group acting transitively on a set X. We call G a Frobenius group if only the identity element fixes more than one point. In other words, if x,y are distinct elements, and if gx=x and gy=y then g=1. We assume that X has more than one element.

要するに、単位元以外の元はその作用によって高々1つの点しか固定しないということである。

重要な部分群

高々1つの点を固定するということは、点を1つ固定する元と1つも固定しない元があることを意味する。作用によって1つも点を固定しない元と単位元を合わせたものはFrobenius群の正規部分群となっており、これをFrobenius kernelと呼ぶ。また、作用によってある点 x_0 \in Xを固定する元と単位元を合わせたものは部分群となっており、これをFrobenius complementと呼ぶ。

一般にFrobenius群Gには常にFrobenius kernel KとFrobenius complement Hが存在し、 G = HKとなる。上で述べた事実と合わせると、結局GはKとHの半直積になる。すなわち、 G = K \rtimes Hである。

G, K, Hの成す短完全列

GとKは以下のような短完全列を成す。

 \displaystyle{
\{1\} \to K \xrightarrow{\nu} G \xrightarrow{\pi} G/K \to \{1\}
}

ここで、 \nuは入射、 \piは自然な全射を表す。

Frobenius群Gに対してKとG/Kは常に巡回群になることが知られている。このような性質を持つ群をメタ巡回群と呼ぶ[6]。すなわち、Frobenius群はメタ巡回群であると言える。

実はさらに G/K \cong Hとなる。G/KからHへの同型を \phiとすると、結局以下の短完全列が得られる。

 \displaystyle{
\{1\} \to K \xrightarrow{\nu} G \xrightarrow{\phi \circ \pi} H \to \{1\}
}

 F_{20}の全体像

Frobenius群の一般論はこれくらいにして、以下に F_{20}の構造を示す。

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 F_{20}は2つの置換 \sigma = (1, 2, 3, 4, 5),\ \tau = (2, 3, 5, 4)によって生成されるので、全ての元を \sigma,\ \tauの積として表現している。エッジは生成元を左から掛ける操作を表しているが、一部省略している。各ノード下段の括弧で囲われた数字は、(1, 2, 3, 4, 5)という数字の列に対してその元を左作用させた結果を表している。その作用によって固定される点を赤で示している。

また、Frobenius kernelの元はノードに色を付けてある。具体的には K = \{1, \sigma, \sigma^2, \sigma^3, \sigma^4\}であり、これは正規部分群かつ巡回群になっている。なお、念のため明示的に述べておくが K = C_5となっている。

 F_{20}のFrobenius complementを得るために、例えば1を固定する元の集合を考えてみる。これは H = \{1, \tau, \tau^2, \tau^3 \}であり、確かに部分群かつ巡回群になっている。

まとめ

以上、既約多項式のGalois群の性質について述べ、続いてFrobenius群の紹介をした。後半はほとんど余談であったが、このようにある群の持つ性質をあれこれ調べてみるのは結構面白いし、Frobenius群を身近に感じるよい機会であったと思う。

次回はいよいよ可解な5次方程式の核心に迫っていこうと思う。

参考

[1]

代数学2 環と体とガロア理論

代数学2 環と体とガロア理論

[2]
代数学1 群論入門 (代数学シリーズ)

代数学1 群論入門 (代数学シリーズ)

[3] http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/0848-01.pdf
[4] http://www.isc.meiji.ac.jp/~kurano/soturon/ronbun/08kurano.pdf
[5] Frobenius Groups
[6] Metacyclic group - Wikipedia