5次方程式の解を巡る旅 〜3次・4次方程式のresolvent編〜

前回の記事 \mathbb{Q}上の5次既約多項式のGalois群について調べた。本稿では実際に方程式を解くために必要となるresolventについて説明する。

本当に知りたいのは5次方程式についてだが、前準備としてより低次元の方程式が解ける仕組みを理解しておくことは有用なので、本稿では話のスコープを3次・4次方程式に絞ることにする。

Resolventを用いた方程式の解法

次元の高い方程式を扱うための方法の1つとして、問題をより次元の低い方程式に帰着させることが挙げられる。例えば、nを3以上の自然数として、あるn次方程式を解きたいとする。もし自然数m  (m < n) に対してm次方程式の解から元の方程式の解が導き出せるのであれば、解くべき問題をずっと簡単にすることができる。

Resolventは3次・4次方程式に対して、そのような次元削減の方法を与えてくれる。

3次方程式の場合

Resolvent invariant

 \mathbb{Q}上の3次多項式 f(x) = x^3 + a_2 x^2 + a_1 x + a_0に対して、方程式 f(x)=0を解くことを考える。議論の流れに大きな影響はないので、f(x)はmonicとしている。

f(x)の根を x_1,\ x_2,\ x_3としたとき、一部の根の置換に対して不変となるような x_1,\ x_2,\ x_3多項式を考える。「一部の根の置換」として3次交代群 A_3を考えた場合、その作用に対して不変となる多項式を得るためには以下の式を利用する。

 \displaystyle{
U = x_1 + \omega x_2 + \omega^2 x_3
}

ここで、 \omegaは1の原始3乗根である。すると、 U^3 A_3の作用に対して不変となる。

このように、対称群の部分群に対して不変となるような式のことをresolvent invariantと呼ぶ[1]。しかし、実のところresolventという用語は使う人によって指すものが異なっている場合があり、resolvent invariantのことを単にresolventと呼ぶこともあるようである。

Resolvent equation

話を続けよう。さらに以下の式を考える。

 \displaystyle{
V = x_1 + \omega^2 x_2 + \omega x_3
}

 U^3 A_3の作用に対しては不変だが、奇置換を作用させると V^3に変化する。実は V^3も同様の性質を持っており、 A_3の作用に対しては不変、奇置換の作用に対しては U^3に変化する。

ここで、 U^3,\ V^3を解に持つ方程式を考えてみる。

 \displaystyle{
(t - U^3)(t - V^3) = 0
}

左辺をg(x)とおく。ここまでの議論により、g(x)の係数に S_3の元を作用させると、以下のどちらかになる。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
(t - U^3)(t - V^3) \\
(t - V^3)(t - U^3)
\end{eqnarray}
}

結果はどちらも同じになっている。つまり、g(x)は S_3の作用に対して不変になる。そのため、g(x)の係数は x_1,\ x_2,\ x_3の対称式となる。対称式は基本対称式で表すことができるわけだが、解と係数の関係よりf(x)の係数が x_1,\ x_2,\ x_3の基本対称式になることを考えると、これはg(x)の係数をf(x)の係数で表せることを意味する。 ただし、計算は面倒なので割愛する。

このようして得られたg(x)を解けば U^3,\ V^3が分かる。あとはここから x_1,\ x_2,\ x_3を求めたいわけだが、これは以下のようして得られる。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
x_1 &=& \frac{U + V - a_2}{3} \\
x_2 &=& \frac{\omega^2 U + \omega V - a_2}{3} \\
x_3 &=& \frac{\omega U + \omega^2 V - a_2}{3}
\end{eqnarray}
}

ただし、 a_2 = -(x_1 + x_2 + x_3)に注意されたい。

このように、3次方程式を解くにはまず g(x)=0という2次方程式を解き、その解を元に f(x)=0の解を求める。そして、元の方程式を解くために利用される方程式 g(x)=0のことをresolventと呼ぶ[1]。これに関しても用語の揺れがあって、resolvent equation、または日本語だと分解方程式とか分解式などと呼ばれることもある。

Resolvent invariantの条件

このようなことが成立するのは、こうなるようにresolvent invariantをうまく選んでいるからである。すなわち、resolvent invariantは以下の条件を満たすように選ばれていたのである。

  • 対称群の作用に対してn個未満のパターンにしか変化しない。
  • そこから元の方程式の解を導き出せる。

3次方程式についてはこのような都合の良い式が存在したので、解くことができたのである。

4次方程式の場合

4次方程式も基本的には同じ流れで解ける。 \mathbb{Q}上の4次多項式 f(x) = x^4 + a_3 x^3 + a_2 x^2 + a_1 x + a_0に対して、方程式 f(x)=0を解くことを考える。やはりf(x)はmonicとしておく。

f(x)の根を x_1,\ x_2,\ x_3,\ x_4としたとき、resolvent invariantとして以下の式を考えてみる。

 \displaystyle{
\tau_1 = x_1 x_2 + x_3 x_4
}

 \tau_1は二面体群 D_4 = \langle (1\ 2),\ (1\ 3\ 2\ 4) \rangleの作用に対しては不変であるが、それ以外の置換を作用させると以下のどちらかの式に変化する。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
\tau_2 &=& x_1 x_3 + x_2 x_4 \\ 
\tau_3 &=& x_1 x_4 + x_2 x_3
\end{eqnarray}
}

ここで1つ困ったことがある。3次方程式の場合は U^3,\ V^3がどちらも A_3の作用に対して不変となっていた。しかし、ここで得られた \tau_2,\ \tau_3 D_4に対して不変ではない。この違いをどう捉えたら良いだろうか?

実は、 \tau_2,\ \tau_3はそれぞれ D_4と共役な部分群 D_4' =  \langle(1\ 3),\ (1\ 2\ 3\ 4)  \rangle D_4'' =  \langle(1\ 4),\ (1\ 3\ 4\ 2)  \rangleの作用に対して不変なのである。3次方程式の場合は A_3がたまたま S_3正規部分群だったため、共役な部分群が A_3だけだったのである。

あとは \tau_2,\ \tau_3にそれぞれ D_4',\ D_4''以外の置換を作用させたときにどうなるかだが、 \tau_2 \tau_1,\ \tau_3のどちらかに、 \tau_3 \tau_1,\ \tau_2のどちらかに変化し、それ以外の変化のパターンはない。結局、 \tau_1,\ \tau_2,\ \tau_3 S_4の作用に対して変化しないか、互いに遷移し合うかのどちらかになる。

このとき、以下の方程式がresolvent equationとなる。

 \displaystyle{
(t - \tau_1)(t - \tau_2)(t - \tau_3) = 0
}

左辺をg(x)とおく。先ほどの議論により、g(x)の係数に S_4の元を作用させると根が互いに入れ替わるだけで、g(x)自体は不変となる。そのため、g(x)の係数は x_1,\ x_2,\ x_3,\ x_4の対称式となり、解と係数の関係によりg(x)の係数をf(x)の係数で表すことができる。

このようして得られたg(x)を解けば \tau_1,\ \tau_2,\ \tau_3が分かる。最後に、これらを用いて x_1,\ x_2,\ x_3,\ x_4を求める必要があるが、これは可能である。具体的な式は複雑なので割愛するが、気になる方は[2]などを参照されたい。

これで4次方程式も解くことが出来た。

おまけ:Lagrange resolventとは

本筋とはあまり関係ないが、最後にLagrange resolventの話をしておこうと思う。私は本件の調査を始めるまで、高次方程式を解くにはLagrange resolventというすごいやつを使えば良いのだと思っていたが、実はそうではない。ここで今の私の理解を整理しておく。

あるn次多項式f(x)の根を x_1,\ x_2,\ \cdots ,\ x_nとすると、Lagrange resolventとは以下のような式のことを言う。

 \displaystyle{
\sum_{i=1}^{n} \zeta_n^{i-1} x_i
}

ただし、 \zeta_nは1の原始n乗根である。

Lagrange resolventには面白い性質がある。すなわち、 \zeta_nで割ると根に巡回置換 (1\ 2\cdots n)を作用すさせるのと同じ効果が得られるのである。すると、 \frac{1}{\zeta_n}の作用により以下の異なるn個の式が得られる。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^{n} \zeta_n^{i-1} x_i &=& x_1 + \zeta_n x_2 + \zeta_n^2 x_3 + \cdots + \zeta_n^{n-1} x_n \\
\frac{1}{\zeta_n} \sum_{i=1}^{n} \zeta_n^{i-1} x_i &=& x_2 + \zeta_n x_3 + \zeta_n^2 x_4 + \cdots + \zeta_n^{n-1} x_1 \\
\frac{1}{\zeta_n^2} \sum_{i=1}^{n} \zeta_n^{i-1} x_i &=& x_3 + \zeta_n x_4 + \zeta_n^2 x_5 + \cdots + \zeta_n^{n-1} x_2 \\
\vdots \\
\frac{1}{\zeta_n^{n-1}} \sum_{i=1}^{n} \zeta_n^{i-1} x_i &=& x_n + \zeta_n x_1 + \zeta_n^2 x_2 + \cdots + \zeta_n^{n-1} x_{n-1}
\end{eqnarray}
}

ここで、これらを全てn乗した式を考えると、全て一致することが分かる。つまり、n次多項式のLagrange resolventは、n乗することで巡回置換 (1\ 2\cdots n)に対して不変となるのである。

それ以外の置換に対する変化を考えると、結局Lagrange resolventのn乗は (n-1)!通りに変化することが分かる。

実は3次方程式を解く際に登場したU, VはLagrange resolventになっている。そのため、これらを3乗すると (3-1)!=2通りの式に変化したと言うわけである。

一方、4次方程式ではLagrange resolventを利用していない。それは、変化のパターンが (4-1)!=6通りとなってしまい、4次方程式を解くために6次方程式を解かなければならなくなるからである。

そんなわけで、Lagrange resolventは面白いが、方程式を解くのに使える万能薬ではないのである。

まとめ

以上、resolventとは何かということについて説明した。書き始めてみると毎度長くなってしまい、なかなか核心に迫れないでいるが、次回こそ5次方程式の可解性の議論に入りたいと思う。

参考

[1] Resolvent (Galois theory) - Wikipedia
[2]

代数学2 環と体とガロア理論

代数学2 環と体とガロア理論