モーメント母関数とTaylor展開の項別微分
最近、統計学を勉強している。統計学における重要な概念の1つとしてモーメント母関数がある。モーメント母関数とは簡単な計算を施すことで次々と重要な統計量が取得できる便利関数であるが、これは指数関数のTaylor展開と関係がある。本稿ではこれについて疑問に思ったことと、その回答について書いてみる。
なお、あらかじめ述べておくが、本稿は統計学の話と見せかけて、内容はほとんど解析学の話である。
モーメント母関数
定義
まず、モーメントの定義を以下に示す[1]。
を, Xの (原点のまわりの) r次のモーメント moment, または積率といい,
(ただし、)
を, Xの期待値 (平均) のまわりのr次のモーメンという.
本[1]は記法が少々分かりづらいが、Xの期待値のまわりのモーメントの式は恐らくを意図しているものと思われる。
続いてモーメント母関数の定義を以下に示す[1]。
Taylor展開と項別微分
先程の説明の中で、さらりと項別微分を行っていたことにお気づきだろうか?よく知られているように、無限級数はいつでも気軽に項別微分出来るものではなく、常にそれが可能かどうかチェックする必要がある。
ここで私が疑問に思ったのは、Taylor展開によって得られた無限級数はいつでも項別微分可能か?ということである。以下でこれについて調べていこう。
冪級数
Taylor展開によって得られる無限級数は、いわゆる冪級数の形をしている。冪級数とは以下のような形をした級数である[2]。
ただし、にxを代入してもこの後の議論はほとんど変わらないので、ここでは以下のような冪級数のみを考える。
項別微分可能条件
Taylor展開によって得られる冪級数の場合、xが収束半径内に収まってさえいれば収束は保証される。また、各項は微分可能であり、各項の導関数も当然連続である。そのため、項別微分可能であるかどうかを知るためには、以下の2点について調べれば良い。
以下でそれぞれについて調べてみよう。
冪級数の一様収束条件
冪級数の一様収束性を考える上では、次のAbelの定理が有効である。
ここでちょっとした疑問が生じる。収束半径rに対して、xが収束する区間はよくというように開区間として与えられる。一方、上の定理では閉区間での一様収束性を述べており、この定理をどのように適用すれば良いか分かりづらい。この点について少し説明してみる。
の収束半径をrとする。また、をrより十分小さい正の数であるとする。一様収束とは、ざっくり言えばある区間において関数値があらゆるxに対して同じように収束していく様子を表す。そのため、ある1つの点において一様収束を考える意味はなく、必ず区間について考える必要がある。
一様収束を考える区間として、ここではに着目してみよう。収束半径はrなので、の点においては収束する。よってAbelの定理によりに含まれる任意の閉区間においては一様収束する。特に、において一様収束する。の極限をを考えれば、結局は収束半径内において一様収束すると言える。
なお、の場合は若干証明が異なるが、考え方はほとんど一緒である。
まとめ
本稿ではモーメント母関数に端を発し、Taylor展開によって得られる無限級数の項別微分可能性について述べた。結論として、そのような級数は何回でも項別微分出来ることが分かった。
分かっている人からしてみれば実に当たり前のことかも知れないが、私にしてみればこういう疑問を抱けたこと自体を嬉しく思う。こういう初歩的な事実に対しても常に懐疑的に見る気持ちを忘れずに、これからも数学を学んでいけると良い。
参考
[1]
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