測度論がちょっと分かった気がする ~ルベーグ測度を見つめる~

前回の記事では、測度論の一般的な事柄について理解を深めた。本稿ではルベーグ測度に焦点を当てて、理解を深めていきたいと思う。

外測度と内測度

ルベーグ測度とは面積や体積を一般化したような量、いわば集合のサイズを計るための道具である。ルベーグ測度を得るためのざっくりとした道筋はこうだ。まず、 \mathbb{R}上の集合に対して、外測度および内測度と呼ばれる概念を定義する。ざっくり言えば、外測度は集合のサイズを外側から測ったもの、内測度は内側から測ったものである。両者が一致した時、その集合は測度が確定し、それをその集合のルベーグ測度とするのである。

まず外測度の定義を以下に示す[1]*1

外測度
 e \mathbb{R}^nにおける任意の点集合とすれば, 区間列 (有限列または無限列)  w_iをもって eを覆うことができる.  eを覆う全ての区間列に関する下限
 \displaystyle{
\mu^{*}(e) = \mathrm{inf} \sum_{i=1}^{\infty} \mu (w_i),\ \ e \subset \bigcup_i w_i
}
 eの外測度という.

ただし、区間 w = [a_1, b_1] \times [a_2, b_2] \times \cdots \times [a_n, b_n]\ (a_i \le b_i)に対して、 wの測度を以下のように定める。
 \displaystyle{
\mu(w) = \Pi_{i=1}^{n} (b_i - a_i)
}

続いて内測度の定義を以下に示す[1]。

内測度
 e有界として,  e \subset wなる有界区間 wに対する eの余集合を \overline{e}とする :  w = e + \overline{e}. もしも \mu^{*}が加法的ならば,  \mu^{*}(e) + \mu^{*}(\overline{e}) = \mu^{*}(w) = \mu(w)なることを要するが, 不幸にして, 任意の集合 eに関して, そうは行かない. そこでLebesgueは
 \displaystyle{
\mu_{*}(e) = \mu(w) - \mu^{*}(\overline{e})
}
と置いて,  \mu_{*}(e)を集合 eの内測度と名付け,
 \displaystyle{
\mu^{*}(e) = \mu_{*}(e)
}
なるとき,  eを測度確定の集合として, 上記共通の値を eの測度とした.

端的に言えば、集合 eの内測度とは、 eを含む適当な区間において、その区間全体の測度から eの補集合の外測度を引いたものである。この定義による内測度は eを含む区間の選択に依存しない。

測度確定であるための条件の一般化

上で述べた内測度の定義では、対象となる集合を含む区間を考える必要があるため、有界な集合に対してしか内測度を考えることができない。この制限を取り払うために、測度確定となるための条件を修正する。すなわち、 (必ずしも有界とは限らない) 集合 eの測度が確定するのは、任意の区間 wに対して以下の条件を満たすときであるとする。

 \displaystyle{
\mu(w) = \mu^{*}(w \cap e) + \mu^{*}(w \cap \overline{e})
}

カラテオドリの条件とその妥当性

これで幾分か使いやすい定義になった。少なくともユークリッド空間であればこれで困ることはないだろう。しかし、これを一般的な位相空間に適用しようとすると、 w区間であるという条件が邪魔になる。そこで、カラテオドリは前述の定義をさらに以下のように修正した。すなわち、集合 eの測度が確定するのは、任意の集合 uに対して以下の条件を満たすときであるとする。

 \displaystyle{
\mu^{*}(u) = \mu^{*}(u \cap e) + \mu^{*}(u \cap \overline{e})
}

先ほどとの違いは「任意の区間 w」が「任意の集合 u」に置き換わったところと、左辺が外測度になったところである。この条件を満たすとき、 \mu(e) = \mu^{*}(e) eの測度の定義とするのである。

なるほど、確かに一般化されているような気はするが、もとの条件と比べて厳しい条件になっていないかが気になる。特に、ユークリッド空間上のある集合について、もとの条件であれば測度確定と言えたのに、カラテオドリの条件は満たさないので測度が確定しないというケースはないのだろうか?

結論から言うと、そういうケースはない。つまり、ユークリッド空間上の集合が一般化した測度確定の定義を満たすなら、必ずカラテオドリの条件を満たす。証明は少々手間が掛かるので本[1]等に譲る。

ルベーグ測度確定となる集合

ここまでルベーグ測度についてあれこれ書いてみたが、一つ気になることがある。それは、前回の記事で一生懸命議論した完全加法族やら可測空間といった概念が全く登場していないことである。この疑問はつまるところ「ルベーグ測度確定となる集合の族 {\bf S}は完全加法族を成すか?」という問いに他ならない。もしこれがYesであれば、三つ組 (\mathbb{R}^n, {\bf S}, \mu)は測度空間を成すことになるからである。

結論から言うと、 {\bf S}は完全加法族を成す。完全な証明は本[1]に譲るが、例えば任意の集合 uに対して以下が成立する。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
\mu^{*}(u \cap \mathbb{R}^n) + \mu^{*}(u \cap \overline{\mathbb{R}^n}) &=& \mu^{*}(u) + \mu^{*}(\varphi) \\
&=& \mu^{*}(u)
\end{eqnarray}
}

よって \mathbb{R}^n \in {\bf S}が言える。また、 e \in {\bf S}に対して \overline{e} \in {\bf S}となることはカラテオドリの条件から自明である。

まとめ

本稿ではルベーグ測度の基本的な考え方について述べた。また、ルベーグ測度から確かに測度空間が導かれるという点に言及した。これにより、抽象的な議論が確かに具体的な測度の中に生きているということが感じられた。

本当はルベーグ測度の完備性についても触れたかったが、最近はあまり長い記事を仕上げる時間的余裕がないので、それはまたの機会とする。多少なりとも測度についての理解を深めたので、ぼちぼち確率論の勉強に戻ろう。

*1:記号を引用元と若干変えている。