群の同型と剰余群の罠
先日トポロジーの本を読んでいたときに、私が剰余群について疑問に思ったことについて言及されている箇所があった。本稿ではそれについて書いてみたいと思う。
疑問
剰余群の最も簡単な例として、を考えてみよう。これが位数2の巡回群になるのは周知の通りであるが、ちょっと考えてみて欲しい。とはどちらも可算無限集合であるから、全ての元に対して0から順に番号を付けることができる。例えば以下のように番号を付けたとしよう。
# | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ... |
---|---|---|---|---|---|---|---|
0 | 1 | -1 | 2 | -2 | 3 | ... | |
0 | 2 | -2 | 4 | -4 | 6 | ... |
これより、とにおいて同じ番号が振られた元の間に一対一の対応関係を考えることができる。すなわち、以下のように定義される群同型が存在する。
よってである。つまり、とは群として同じ構造を持っているので、となってしまいそうな気がする。しかし、これはの位数が2であることに矛盾する。一体何が間違っているのだろうか?
基底に着目しよう
私が読んだ本に記載があったのは自由加群のみであったので、まずはそれについて紹介する。ポイントは自由加群としての基底に着目することである。
とはどちらも自由-加群であるから、基底を取ることができる。そして、係数による基底の線型結合によって、全ての元を表すことができる。とはどちらも1つの基底によって張られる。ここではそれぞれの基底として1と2を取ってみよう。このとき、との元はそれぞれ, と表すことができる。
これらの基底に着目して剰余群を考えてみよう。の元のによる剰余類はという形で表される。ここで、mをの基底の線型結合で表される部分とそうでない部分に分けることを考える。の基底として2を選んでいるから、またはとなる。よって、またはの2つの同値類が得られる。そのため、は位数2の群になるのである。
このように、自由加群の剰余群を考えるときには、その基底に着目すれば間違えることはない。ある自由加群A, Bが, だからといって、とは限らず、丁寧に基底を追う必要があるのである。
もっと複雑な例
の2つのベクトルを考える。ただし、は互いに一次独立であるとする。これらのベクトルが張るの部分空間, について考えてみよう。これらは自由-加群として考えると、, となる。
かつE, Fともに加法についてアーベル群であるから、となる。よって剰余群を考えることができる。もし同型に着目した間違った計算をしていたら、としてしまうところである。
正しくはこうだ。まず、Fの基底はである。Eの任意の元を、Fの基底の線形結合で表される部分とそうでない部分に分けると、以下のようになる
最後の式変形ではと置いた。4kが何であろうとmによる自由度があるので、m'は全ての整数を動くことができる。よっての係数に着目すると、であることが分かる。
残った疑問
以上、自由加群については基底に着目することで剰余を正しく捉えられることが分かった。残る問題は自由加群でない場合にどう考えればよいかである。ただし、この問題は恐らく位数有限の場合には起こらない。なぜなら、この現象は2つの異なる集合があったときに、それらがどちらも可算無限という名のもとに同一視されたときに起こる現象だからである。
そのため、より正確には「自由加群でない位数無限の群の場合に剰余をどのように扱うべきか?」という問いになる。例えば、有限生成アーベル群なんかがそうだ。この場合、自由加群でないため基底は存在しないが、ひょっとしたら生成元に着目することで何か分かることがあるのかもしれない。が、あまりそのようなケースで困ったことがないので、この問題について考えるのはこれくらいにしておこうと思う。
参考
- 作者: 杉原厚吉,岡部靖憲,米谷民明,和達三樹
- 出版社/メーカー: 朝倉書店
- 発売日: 2001/09
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