有限生成アーベル群の捩れがrankと無関係な理由

有限生成アーベル群のrank

今日もトポロジーの本を読んでいて得られた副次的な知見について書いてみたいと思う。それは、有限生成アーベル群のrankにまつわる話である。有限生成アーベル群の基本定理により、任意の有限生成アーベル群Gは以下の形の群と同型になる。

{ \displaystyle
G \cong \mathbb{Z}^r \times \mathbb{Z}/e_1\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/e_2\mathbb{Z} \times \cdots \times \mathbb{Z}/e_s\mathbb{Z} \ (e_i \in \mathbb{N} \ \mathrm{for}\  i = 1, 2, \cdots, s)
}

ここで、 \mathbb{Z}^rとは \mathbb{Z}^r = \mathbb{Z} \times \cdots \times \mathbb{Z}というように \mathbb{Z}のr個の直積を表す。このとき、rをGのrankと言う。

さて、このrankという概念には、Gの捩れ元、すなわち \mathbb{Z}/e_1\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/e_2\mathbb{Z} \times \cdots \times \mathbb{Z}/e_s\mathbb{Z}の部分は一切関係しない。これはなぜなのかというのが本日の主題である。

rankと一次独立性

恐らく多くの人がrankという言葉を初めて聞くのは、線形代数においてであろう。行列のrankと言った時に、それは様々な解釈の仕方があるが、例えば行列の行、または列の中に一次独立なベクトルが最大で何本取れるかということを表していたりする。このように、rankとは一次独立性と関係がある概念なのであるが、実はそれは有限生成アーベル群においても同様なのである。ただし、捩れ元のせいで様子は少し奇妙なことになる。

Gの生成元を a_1, a_2, \cdots, a_{r}, b_1, b_2, \cdots, b_sであるとし、各 a_i\ (i=1, 2, \cdots, r) \mathbb{Z}を生成し、各 b_i\ (i=1, 2, \cdots, s) \mathbb{Z}/e_i\mathbb{Z}を生成するとする。このとき、これらの生成元のうち、一体いくつの元が一次独立であるかを考えてみる。もし全ての生成元が一次独立であれば、それらの生成元の線形結合が0になるのは係数が全て0の時のみである。すなわち、以下のような方程式の解が n_1 = n_2 = \cdots = n_{r+s} = 0のみとなる。

{ \displaystyle
n_1 a_1 + n_2 a_2 + \cdots n_r a_r + n_{r+1} b_1 + n_{r+2} b_2 + \cdots + n_{r+s} b_s = 0
}

しかし、実はこれは正しくない。なぜなら、後半の生成元 b_1, b_2, \cdots, b_sは位数有限であり、以下のようにしても上記の線型結合の値を0にできるからである。

{ \displaystyle
0 a_1 + 0 a_2 + \cdots 0 a_r + e_1 b_1 + e_2 b_2 + \cdots + e_s b_s = 0
}

本当に係数を0にしないと線型結合が0にできない部分というのは生成元の前半部分 a_1, a_2, \cdots, a_rのみである。これがGのrankをrだと考える理由である。

まとめ

以上、有限生成アーベル群のrankは生成元のうち一次独立なものの個数を表しているというお話であった。位数無限の生成元だけでは群全体を生成することができないのに、一次独立になるのはそれらの生成元だけだというのは、線形代数の感覚からするとなんとも奇妙である。それ故に面白い。

2回続けてトポロジーとは直接関係ない記事が続いたので、そろそろトポロジーについても何か書いてみたい。

参考

トポロジー (応用数学基礎講座)

トポロジー (応用数学基礎講座)