米田の補題と表現可能関手の関係は?
前回の記事では表現可能関手と米田の補題に関する例を紹介した。前回は初めに表現可能関手を導入しておきながら、その後の米田の補題では「実は表現可能関手は補題の主張に登場しません」という、一見するとわけが分からない説明をしていた。正直、ここは執筆時点での私の理解度の低さもあり、説明の流れがいまいちだったと反省している。
確かに米田の補題の主張に表現可能関手は登場しないが、とか
のようにそれを匂わせる要素は登場している。実際、両者は全くの無関係ではない。本稿では米田の補題と表現可能関手が関わりを持つ事例としてuniversal elementというものについて例を用いながら説明する。
Universal element
まずはuniversal element の定義を本[1]から引用する。
An element
上記の関係を図に描くと以下のようになる。

つまり、反変関手に対してあるすごい要素
があって、
に対して射
が一意に定まって、
を経由しつつ
から
へ至る道があるという感じである。このように射が一意に定まるというのは普遍性そのものであり、
は普遍性を導き出してくれるものなのでuniversalの名を冠しているのだろう。
ここで、前回の記事で紹介した表現可能関手の定義を見てみよう。この定義の後半にはの表現(representation)について説明されていた。おさらいすると、表現可能関手
について
の表現とは対象
と自然同型
の組のことであった。
本節の冒頭で紹介したuniversal elementの定義の前半部分では、の表現は組
によっても決まると言っている。これはつまり、条件(4.6)を満たす
と一対一に対応する自然同型
にがあって、組
と組
のいずれを考えても実質同じだということである。以下ではそのことについて説明しよう(全体的に[1]を参考にした)。
まず、米田の補題より元に対して一対一に対応する自然変換
が存在する(これが先ほどまで
と呼んでいたものに相当するが、説明の都合により記号を変える)。この
に対して条件(4.6)が成り立つことと
が自然同型であることが同値であると言えればよい。
そのために、まずについて
という写像を以下のように定義しよう。
このような射の族は
について自然であることが示せる(詳細は本[1]などを参照)。つまり、
を
成分とするような自然変換
を考えることができる。
が自然同型であるということは全ての
成分について
が全単射であることと同値である。さらにこれは全ての
と
について
となるような
が一意に存在することと同値である。
なので、これは結局条件(4.6)そのものである。以上により
が自然同型であることと条件(4.6)が成り立つことは同値である。
ここまでuniversal elementの性質について説明したが、本質的には米田の補題によって自然変換と
が対応するからこそ、
の元である
だけで反変関手
の表現が決まってしまうのだと言えよう。
共変バージョン
この後の例で使うためにuniversal elementに関するcorollaryの共変バージョンも本[1]から引用しておく。
表現可能関手とuniversal elementの関係
私は本[1]を読んでいて一つ釈然としないことがあった。それは、4.3節でuniversal elementについて説明している中で一度も"representable"とか"representable functor"という言葉が出てこないことである。例の中には出てくるのだが、理論的な説明をしているところにはこれらの言葉が出てこない。一方、"representation"という言葉は出てくる。
圏論素人である自分からすると、結局representation(表現)が定まっているということは表現可能関手だと思ってよいのか?とか、あるいは同じことだがuniversal elementがあれば表現可能関手だと言ってよいのか?とかが初め良く分からなかった。
今の自分の理解としては、これらの問いへの答えはYESだと考えている。というのも、表現というのは対象とuniversal element
の組なわけだが、これは
と自然同型
の組と一対一に対応する。そして
が自然同型ということは関手
は定義により表現可能関手になるからである。逆に、表現可能関手に対して表現
が存在することは定義より明らかである。そのため、
がuniversal elementを持つことと表現可能関手であることは同値であると言える、と思う。
本[1]にはこれらについて明示的に書かれていなかったので、一応ここで自分の理解を示しておいた。
例
前回の記事の例においてuniversal elementがどうなるのかを考えてみよう。
共変バージョンの例
前回と同じく体上の線形空間の圏
に対する忘却関手
を考える。
を0でない元とする。また、写像
を以下のように定義する。
ベクトル空間と
を任意に選んだとき、
となるような線形写像
が一意に定まれば
はuniversal elementだと言える。そこで、
に対して
を以下のように定義する。
ただし、であるとする。
を
に代入すると以下のようになる。
次にを満たすような
の一意性を示す。線形写像
について
と仮定すると以下の式が成り立つ。
よってとなるので
は一意に定まる。以上により
はuniversal elementだと言える。この事実より明らかだが、一般にuniversal elementは1つだけ存在するとは限らない。
ところで、なぜである必要があったのだろうか?試しに
の
成分を考えてみると、
となり、
が自然同型にならない。よって
の元のうち0だけはuniversal elementにならない。
反変バージョンの例
前回と同じく集合に対する冪集合を返す関手を考える。
とし、写像
を以下のように定義する。
集合と
を任意に選んだとき、
となるような写像
が一意に定まれば
はuniversal elementだと言える。
の候補としては
の4つがある。それぞれについて考えてみよう。
のとき、
に対して
を以下のように定義する。
を
に代入すると以下のようになる。
次にの一意性についてだが、これはほぼ自明なので割愛する。
以上によりはuniversal elementだと言える。
同様に、の場合は以下のような
に対してのみ
が成り立つ。
よってもuniversal elementである。
一方、および
はuniversal elementではない。試しに
および
に対してそれぞれ
を計算してみると、
に関わらず以下のような結果になる。
これより任意のに対して
となるような
をどう足掻いても構成できないので、
および
はuniversal elementではない。
まとめ
本稿では表現可能関手に関する重要な概念であるuniversal elementについて説明した。その中で米田の補題が重要な役割を担っていることについて言及した。最後にuniversal elementの例を2つ紹介した。
米田の補題にまつわる諸概念は初見だと本当に頭がこんがらがって全然理解できず、根気よく考えることが必要だった。しかし、良く分からないことを分かるまで考えてみるのは非常に楽しい。
今回も勉強の過程でChatGPTをたくさん使ったが、AIなしではかなり厳しかったと思う。数学の初歩的な事項を独学するには本当に良い時代になった(研究レベルで使い物になるのかはよく知らないが)。






