幾何平均の使いどころ

「平均」と言えば、算術平均 (=相加平均) の他に幾何平均 (=相乗平均) があるということをご存知の方は多いだろう。算術平均の方は意味が理解しやすく、使われる場面も多いと思われる。一方で、幾何平均はその意味するところが分かりづらく、一体どんな場面で使うべきものなのか、不勉強な私はこれまで知らなかった。せいぜい、高校数学で相加・相乗平均の関係を計算に使ったりする程度で、幾何平均ならではの使いどころというのは理解していなかった。

最近、統計学の本[1]を読み直して幾何平均の使いどころに気づいたので、本稿ではそれを紹介したいと思う。

定義

幾何平均の定義を[1]より引用する。

幾何平均
正数 x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_nの幾何平均 geometric mean  x_G
\displaystyle{
x_G = \sqrt[n]{x_1 \cdot x_2 \cdot \ \cdots \ \cdot x_n}
}
で定義され, (以下省略)

幾何平均の意味

幾何平均の定義式を少し変形してみよう。

\displaystyle{
x_G^n = x_1 \cdot x_2 \cdot \ \cdots \ \cdot x_n
}

この式の意味は、平均を計算するのに使用されたn個の数を全て掛け合わせたものは、幾何平均のn乗に等しいということである。つまり幾何平均とは、互いに掛け合わせることに意味があるようなデータに対して、平均的にはどのような数を掛け合わせることに相当するかを示す指標と言える。

例 : 前年度との売上比率

ここまでの話だけ聞くと何だか当たり前のことのような気がしてしまう訳だが、この事実を真に理解するために、1つ例を見て頂きたい。

ある会社の売上高が、2015年度から2016年度にかけて10%増加、2016年度から2017年度にかけて5%増加、2017年度から2018年度にかけて3%増加したとする。この時、2015年度から2018年度にかけて、平均で毎年どれくらい売上が伸びたと言えるだろうか?

ここで試しに算術平均を計算すると以下のようになる。

 \displaystyle{
\frac{1.1 + 1.05 + 1.03}{3} = 1.06
}

つまり、平均で毎年6%売上が伸びたと言えそうに見える。しかし、実はこれは正しくない。まず、2015年度の売上を1としたとき、2018年度の売上は以下のように計算される。

 \displaystyle{
1.1 \times 1.05 \times 1.03 = 1.18965
}

一方、毎年6%売上が伸びたとして計算すると以下のようになる。

 \displaystyle{
1.06^3 = 1.191016
}

このように、売上比率に対して算術平均を使ってしまうと、元のデータを用いた場合と計算が合わなくなってしまうのである。

この理由は、ある2つの年度の間の売上比率を計算するには、その間の各年度における前年度との売上比率を掛け合わせる必要があるからである。つまり、前年度との売上比率は掛け合わせることに意味があるデータだからである。

このようなケースこそ幾何平均の出番である。今回のデータに対して幾何平均を計算すると以下のようになる。

 \displaystyle{
\sqrt[3]{1.1 \times 1.05 \times 1.03} \simeq 1.059595
}

これを3乗すると、当然だが2015年度の売上を1としたときの2018年度の売上に一致する。すなわち、売上比率に対しては算術平均ではなく幾何平均を使うのが妥当であると言える。

まとめ

以上、幾何平均を使うべきケースについて例を交えて説明した。ポイントとしては、幾何平均は掛け合わせることに意味のあるデータに対して使用するということであった。これでもう、平均を計算する際にどちらを使うべきかで迷うことはないだろう。

参考

[1]

統計学入門 (基礎統計学?)

統計学入門 (基礎統計学?)