5次方程式の解を巡る旅 〜5次方程式の可解性判定編〜

前回の記事で3次・4次方程式のresolventについて説明した。本稿ではここまでの内容を総括し、5次方程式の可解性判定について述べる。

5次方程式の可解性判定

5次方程式のresolvent

 \mathbb{Q}上の5次多項式 f(x) = x^5 + a_3 x^3 + a_2 x^2 + a_1 x + a_0に対して、方程式 f(x)=0の可解性について考える。議論の流れに大きな影響はないので、f(x)はmonicとしている。

f(x)を良く見ると x^4の項がない。実は任意の多項式は適当な変数変換を施すことで、いつでも最高次より1つ次数の小さい項を消す事ができる[1]。そのため、ここでは最初から4次の項はその変換によって消されたものとして扱う。

まずは3次・4次方程式の場合と同じように、5次方程式にもresolventを考えるところからやってみよう。少々恣意的であるが、位数20のFrobenius群 F_{20}の作用に対して不変となる式について考えてみる。これを自力で思い付くのは難易度が高いが、幸い先人が以下の2つの式を見つけてくれている[2][3]。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
P_1 &=& x_1^2 x_2 x_5 + x_1^2 x_3 x_4 + x_2^2 x_1 x_3 + x_2^2 x_4 x_5 + x_3^2 x_1 x_5 \\
&&  + x_3^2 x_2 x_4 + x_4^2 x_1 x_2 + x_4^2 x_3 x_5 + x_5^2 x_1 x_4 + x_5^2 x_2 x_3 \\
Q_1 &=& (x_1 x_2 + x_2 x_3 + x_3 x_4 + x_4 x_5 + x_5 x_1 \\
&&- x_1 x_3 - x_3 x_5 - x_5 x_2 - x_2 x_4 - x_4 x_1)^2
\end{eqnarray}
}

ここで、私自身が悩んだポイントについて補足しておく。上記2つの式は様々な文献で見かけるが、これらの間の関係についてはあまり触れられることがない。実はresolvent invariantに適当な対称式を足したり掛けたりしても、resolvent invariantが持つ対称性に変化はない。そのため、resolvent invariantは無数に存在し、 P_1,\ Q_1はどちらもその中の1つに過ぎない。実際、 4P_1 - Q_1は対称式になっているようだ[4]*1

どちらで考えても同じなので、以下では P_1を利用して議論を進める。 P_1 S_5の元を作用させると異なる6つの式が得られる。 P_1以外の式を以下に示す[2]。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
P_2 &=& (1\ 2\ 3)P_1 \\
P_3 &=& (1\ 3\ 2)P_1 \\
P_4 &=& (1\ 2)P_1 \\
P_5 &=& (2\ 3)P_1 \\
P_6 &=& (1\ 3)P_1 \\
\end{eqnarray}
}

そのため、resolvent equationは以下のようになる。

 \displaystyle{
(z - P_1)(z - P_2)\ \cdots \ (z - P_6) = 0
}

以下、上記resolvent equationの左辺を f_{20}(z)とおく。 f_{20}(z)には P_1 S_5を作用させて得られる変化のパターンを全て根に持たせてあるので、 f_{20}(z)の係数は対称式となる。そのため、f(x)の係数を用いて表す事ができる。

Resolventを用いた可解性判定

ここで困ったことがある。3次・4次方程式ではresolvent equationの方が次数が小さかったため、resolvent equationを解くことで元の方程式の解が得られた。しかし、5次方程式から得られたresolvent equationは6次方程式であり、次元が上がってしまっている。こんな式を得たところで、一体どうしたら良いのだろうか?

実は、ここで以下の強力な定理が火を吹く (ただし、本稿の文脈に合わせて記号等を微修正してある) [2]。

5次方程式の可解性判定
The irreducible quintic  f(x) = x^5 +a_3 x^3 +a_2 x^2 +a_1 x + a_0 \in \mathbb{Q}[x] is solvable by radicals if and only if the polynomial  f_{20}(z) has a rational root. If this is the case, the sextic  f_{20}(z) factors into the product of a linear polynomial and an irreducible quintic.

要するに、 f_{20}(z)がただ1つの有理数根を持てば、f(x)は可解になる。これにより、resolvent equationの根を全て求めることが出来ずとも、元の多項式が可解かどうか判定できる。

Galois群とresolventの関係

しかし、この定理だけ見せられても何だか天下り的というか、どういう理屈でこんな事が成り立つのか分からない。そのため、もう少し掘り下げてみよう。

まず、f(x)が可解というのは、 \mathbb{Q}からf(x)の最小分解体への拡大に対応するGalois群が可解群である事を意味する。以下ではこのGalois群を \mathrm{Gal}(f)と書く。 \mathbb{Q}上既約な5次方程式のGalois群のうち、可解なものは共役を除いて3つしかなく、そのうち位数最大のものはFrobenius群 F_{20}であった。しかも、他の2つは共に F_{20}の部分群である。

そのため、f(x)が可解であるとは、 \mathrm{Gal}(f) \subset F_{20}を意味する。と言いたいところだが、実際には F_{20}には自身を含めて6つの共役な群が存在するので、 \mathrm{Gal}(f)はそのどれかに含まれることになる。

そうなると、 \mathrm{Gal}(f) F_{20}の共役に含まれる条件が知りたくなる。それを定理の形で述べたものが以下である[5]。

Galois群とresolventの関係
If  \mathrm{Gal}(f) is conjugate (in G) to a subgroup of  H = \mathrm{Stab}_G(F), then  \mathrm{Res}_G(F, f) has a root in  \mathbb{Z}. Furthermore, if  \mathrm{Res}_G(F, f) has a simple root in  \mathbb{Z} then  \mathrm{Gal}(f) is conjugate to a subgroup of  H = \mathrm{Stab}_G(F).

ただし、引用した論文では整数係数の多項式について論じているため、何かと \mathbb{Z}が登場していることに注意されたい。ここは \mathbb{Q}と読み替えても良いだろう。

ここで、Fはn変数の多項式であり、f(x)の根を代入することでresolvent invariantの役割を果たすものである。また、Gは対称群 S _nの部分群、 \mathrm{Res}_G(F, f)は以下の式で定義される。

 \displaystyle{
\mathrm{Res}_G(F, f) = \prod_{\sigma \in G/H} \left(z - F(x_{\sigma(1)}, \cdots  , x_{\sigma(n)}) \right)
}

 \mathrm{Res}_G(F, f) = 0という方程式はresolvent equationの一般形となっている。

この定理はGに選択の余地があるが、今は G = S_nのケースだけ考えれば十分である。簡易版の定理を以下に示す。

Galois群とresolventの関係 (簡易版)
If  \mathrm{Gal}(f) is conjugate to a subgroup of  H = \mathrm{Stab}_{S_n}(F), then  \mathrm{Res}_{S_n}(F, f) has a root in  \mathbb{Z}. Furthermore, if  \mathrm{Res}_{S_n}(F, f) has a simple root in  \mathbb{Z} then  \mathrm{Gal}(f) is conjugate to a subgroup of  H = \mathrm{Stab}_{S_n}(F).

上記定理のうち特に後半が重要で、これによってGalois群の可能性を絞り込む事ができる。すなわち、 S_nのある部分群Hに対するresolvent invariantを見つけられれば、まずresolvent equationが得られる。そして、それが有理数根を持つかどうかを調べることで、 \mathrm{Gal}(f)がH、もしくはその共役な部分群に含まれるかどうかが分かるのである。最初の定理が述べていたのはまさにこのGalois群の絞り込みの一例なのである。

可解性判定の例

実際に可解性判定をするためには f_{20}(z)の係数を求める必要があるが、幸い[2]に具体的な式が記載されている。いくつか計算してみよう。

例1:  f(x) = x^5 + 4x^2 - 2

このとき、resolvent equationは以下のようになる。

 \displaystyle{
f_{20}(z) = z^6 + 400 z^4 - 512 z^3 + 40000 z^2 + 68784 z + 65536
}

これは \mathbb{Q}上既約なので、f(x)は可解ではない。

例2:  f(x) = x^5 - 5x^3 + 5x + 3

この例は[6]を参考にさせて頂いた。このとき、resolvent equationは以下のようになる。

 \displaystyle{
f_{20}(z) = z^6 + 40 z^5 + 250 z^4 - 10625  z^3 - 146875 z^2 + 493750 z + 12875000
}

これは以下のように因数分解できる。

 \displaystyle{
f_{20}(z) = (z - 10)(z^5 + 50 z^4 + 750  z^3 - 3125 z^2 - 178125 z + 1287500)
}

有理数根をただ1つ持つので、f(x)は可解である。

おまけ

交代群と判別式

ここまでの議論で5次方程式の可解性を判定することができた。しかし、これだけではf(x)のGalois群が F_{20}に含まれるかどうかが分かるだけである。もっと問題を広げて、f(x)のGalois群を決定したいと思ったらどうすれば良いだろうか?

今の時点で分かっていることを少し言い換えると、Galois群が \{S_{5},\ A_{5}\}、または \{F_{20},\ D_{5},\ C_{5}\}のどちらに属するかを判定できたと言える。厳密にはGalois群はこれらと共役な部分群である可能性もあるが、共役というのは根への添字の付け方による変化に過ぎないので、ここでは共役は同一視する。

それぞれをさらに分解するために、 D_{5},\ C_{5} \subset A_{5}という事実に着目する。つまり、Galois群が A_{5}に含まれるかどうかが判定できれば、さらに可能性を絞り込めるのである。

そのためにはやはり上で紹介した定理を使うわけだが、定理を適用するには A_{5}の作用で不変となるresolvent invariantを見つける必要がある。実は判別式と呼ばれる非常に有名な式がこれに関係している。判別式の定義を以下に示す[7]。

差積と判別式
(1)  \delta(x) = \prod_{i < j} (x_i - x_j) x = (x_1, \cdots , x_n)の差積という.
(2)  \Delta(x) = \delta(x)^2 x = (x_1, \cdots , x_n)の判別式という.

ただし、これはmonicの場合の式のようだ。最高次の係数が1でない場合の式はWikipedia[8]などを参照されたい。

ここで、差積 \delta A_{5}のresolvent invariantになっている。 \delta S_{5}の元を作用させると \deltaまたは -\deltaのどちらかになるため、resolvent equationは以下のようになる。

 \displaystyle{
\begin{eqnarray}
(z - \delta)(z + \delta) &=& 0 \\
z^2 - \Delta &=& 0
\end{eqnarray}
}

上で述べた定理によると、これが有理数解を持てばGalois群が A_{5}に含まれることになる。言い換えると、 \sqrt{\Delta} \in \mathbb{Q}であればGalois群が A_{5}に含まれる。判別式自体は計算する手法が知られているため、これでGalois群が A_{5}に含まれるかどうかが分かる。あとは同様にして D_5,\ C_5を区別してやれば良い。

このように、上述の定理を繰り返し用いることで、多項式のGalois群を決定することができる。ただし、そのためには着目する群のresolvent invariantを求める必要があり、次元が大きくなるとそれが困難になると思われる。

超越的な解法について

ここまで、5次方程式の解を四則演算とべき根のみを使って表せる条件を考えてきた。しかし、これはかなり限定的な状況であるという点はハッキリと意識しておく必要があるだろう。実際、超越的な操作を許すことで、次元がどれだけ大きな方程式でも解を求められる事が知られている[3]。

まとめ

以上、5次方程式の可解性判定法について述べた。その中で、resolventとGalois群の間の関係を明らかにした。今回の調査を通して、Galois群がずっと身近に感じられるようになったのは大きな収穫であった。

本当は実際に5次方程式の解を求めるところまでやりたかったし、超越的な解法にも踏み込んでみたかった。しかし、残念ながら人生の時間は有限である。他の勉強との優先度を考え、5次方程式の解を巡る旅は一旦終えることにする。

もし今後この話題を再び取り上げる機会があれば、その時はまた良い旅ができることを願っている。

*1:これをWolframAlphaで愚直に計算してみたところ、めちゃくちゃ時間がかかった挙げ句にエラーになってしまった。[4]の著者がどうやって P_1,\ Q_1の間の関係を見出だしたのかが気になる。