ルベーグ積分について調べていると、ルベーグ積分はリーマン積分より優れているという文面をよく見かける。これは恐らく事実なのだが、それを知るには両者を様々な観点から比較してみる必要があるだろう。
そこで、本稿では特に基本的な2つの観点、すなわち、積分可能条件と項別積分可能条件について両者を比較し、ルベーグ積分がいかに優れているかを味わってみようと思う。
積分可能条件
リーマン積分可能条件について学部の解析学の講義で習うのは以下のような事実であろう。すなわち、関数fの上ダルブー和と下ダルブー和の極限が一致するときfは積分可能と言い、その極限がfの積分となるのである[2]。これを一歩推し進めると、以下の定理が成立する[1]。
ただし、積分記号の前に(R)、(L)が付いているのはそれぞれリーマン積分、ルベーグ積分を表す。これを見ると分かるように、リーマン積分が扱えるのは有界関数に限定され、積分範囲についても有界閉区間しか許されない。
ただし、Eは可測集合である。
このように、ルベーグ積分は必ずしも有界でない関数に対しても行うことができる。また、積分区間は閉区間でも開区間でもよく、もっと言うと区間である必要もなければ有界である必要すらない。そのため、ルベーグ積分はリーマン積分と比べてより幅広く積分が可能となるのである。
広義積分の場合
リーマン積分は極限と組み合わせることで、積分可能な関数のクラスを拡張することができる。これを広義リーマン積分と呼ぶ。
実は、ルベーグ積分不可能だが、広義リーマン積分可能な関数が存在する。そう聞くと、「なんだ、ルベーグ積分がリーマン積分より優れているなんて嘘じゃないか」と思うかもしれない。しかし、広義リーマン積分は厳密にはリーマン積分とは異なるし、ルベーグ積分も同じように極限と組み合わせて広義ルベーグ積分に拡張することができる。その意味で、やはりルベーグ積分はリーマン積分より優れていると言えるだろう。
以下に各種積分が可能となる関数のクラスの包含関係を示す。
項別積分可能条件
関数列に対してリーマン積分が項別積分可能な条件は以下のように表される[3]。
一方、ルベーグ積分が項別積分可能な条件については、次の2つの定理が有名である[1]。
これら2つの定理の関係性については、調べてもいまいち情報が得られなかった。今のところは、どちらも同じくらい重要で、その時々によってどちらを使うべきか変わってくるのだと思っておくことにする。議論を簡略化するため、以下では主に優収束定理の方に着目する。
条件の厳しさの違いに関する疑問
リーマン積分は一様収束、ルベーグ積分は優収束定理により項別積分可能となるわけだが、実は優収束定理の方が緩い条件だと言われている。その理由は、優収束定理では関数列の各点収束しか求めていないからである。
しかし、これは簡単には納得できない。なぜなら、リーマン積分でもルベーグ積分でも、積分可能なのであれば結果は一致すべきだからだ。つまり、リーマン積分では項別積分すると計算結果が変わってしまうが、ルベーグ積分では変わらないなんてことがあってはならない。
この疑問の答えを探るために、以下の2つの例を考えてみよう。
例1:
この関数の区間[0, 1]での項別積分について考えてみよう。のとき、は以下の関数に各点収束する。
しかし、x=1の付近でヤバい挙動をするため、一様収束とはならない。つまり、リーマン積分については項別積分可能とは言えない。
一方、ルベーグ積分については優収束定理の条件を満たすので、項別積分可能となる。積分可能なg(x)としては、例えばなどとすればよい。
さて、これらの結論は一見すると矛盾しているように思える。一体、どちらが本当なのだろうか?
種明かしをすると、実はこれは項別積分可能である。実際、f(x)の積分は以下のようになる。
また、の積分は以下のようになる。
のときこれは0に収束するので、f(x)の積分と一致する。
結局のところ、リーマン積分における一様収束という条件は項別積分可能であるための十分条件に過ぎず、優収束定理はその条件をもっと精度良く広げていると言えるのだろう*1。
例2:
この例は九州大学のあるpdf[4]から着想を得て、私が考えたものである。この関数を区間[0, 1]で積分することを考えてみよう。分子にディリクレ関数が含まれているので、実際には以下のように場合分けができる。
この関数はほとんど至るところで不連続なため、リーマン積分不可能である。しかし、ルベーグ積分は可能である。まず、の測度は0であるから、の極限は以下のようになる。
よって関数列はに概収束する。ポイントは、に対してとなるが、それらの点は積分には影響を及ぼさないということである。
また、全てのnに対してなので、優収束定理により項別積分可能となる。
実際に確かめてみよう。まず、を積分してから極限を取ると以下のようになる。
よって両者が一致することが分かった。
まとめ
以上、リーマン積分とルベーグ積分を比較し、ルベーグ積分が優れているポイントをいくつか確認することができた。本稿の執筆を通して、ルベーグ積分は、測度の概念と"almost everywhere"の概念を組み合わせることで、さまざまな積分を簡単に扱えるようにしているのが感じられた。
正直に言って、ルベーグ積分にはそこまで興味がなかったが、勉強してみると案外面白かった。確率論への応用もあるようなので、そちらもいずれ勉強してみたい。
参考
[1]
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[2] 積分法 - Wikipedia
[3]
- 作者: 高木貞治
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*1:ただし、これを本当に主張するためには、一様収束はするが優収束定理の前提を満たさないケースは絶対に存在しないことの証明が必要となる。私はまだそれができていないため、あくまで推測であるという点にご注意頂きたい。