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群の自然な準同型と部分群の対応

数学

群Gとその正規部分群Nがあるとする。Gから剰余群G/Nへの自然な準同型を \piとする。G/Nの部分群全体の集合を \mathbb{X}、GのNを含む部分群全体の集合を \mathbb{Y}とする。このとき、写像 \phi : \mathbb{X} \ni H \to \pi^{-1}(H) \in \mathbb{Y}全単射となる。つまり、 \mathbb{X} \mathbb{Y}の元の間には一対一の対応関係がある。例によって細かい理屈はここでは述べないが、今日はこの事実を具体例を用いて可視化してみようと思う。

ある程度大きい群でないと上記事実のイメージを掴むのに役立たないので、位数12の群で考えてみる。位数12の群の中でも適度に複雑なものとして、二面体群 D_6が挙げられる。これは正六角形に対する合同変換全体が成す群である。状況をクリアにするために、ここでは正六角形の中心が二次元ユークリッド空間の原点にあり、さらに2つの互いに反対側に位置する頂点がx軸上に乗っているとする。

 D_6は回転と鏡像反転の操作によって生成される。ここでは原点を中心に半時計回りの方向に \frac{\pi}{3}回転する操作を \sigma、x軸に対して反転する操作を \tauと呼ぶことにする。すると、 D_6の元は以下のように表すことができる。

{ \displaystyle
\{e, \sigma, \sigma^2, \sigma^3, \sigma^4, \sigma^5, \tau, \tau\sigma, \tau\sigma^2, \tau\sigma^3, \tau\sigma^4, \tau\sigma^5 \}
}

次に、正規部分群を1つ選んでみる。ここでは以下の群を使うことにしよう。

{ \displaystyle
N = \{e, \sigma^2, \sigma^4 \}
}

このとき、群Nに関する D_6の同値類は以下のように分類できる。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
N &=& \{e, \sigma^2, \sigma^4 \}\\
\sigma N &=& \{\sigma, \sigma^3, \sigma^5 \}\\
\tau N &=& \{\tau, \tau\sigma^2, \tau\sigma^4 \}\\
\tau\sigma N &=& \{\tau\sigma, \tau\sigma^3, \tau\sigma^5 \}
\end{eqnarray}
}

これらが D_6/Nの元になる。すなわち、 D_6/N = \{N, \sigma N, \tau N, \tau \sigma N \}となる。ここで、単位元はNである。 D_6/Nはクラインの四元群となっており、以下の5つの部分群が存在する。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
X_0 &=& \{N \}\\
X_1 &=& \{N, \sigma N \}\\
X_2 &=& \{N, \tau N \}\\
X_3 &=& \{N, \tau\sigma N \}\\
X_4 &=& D_6/N
\end{eqnarray}
}

これで剰余群の部分群が分かった。続いて、これらと一対一に対応する D_6の部分群を求めてみる。定理によると、それはNを含む部分群になる。以下に具体的に列挙する。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
Y_0 &=& N\\
Y_1 &=& \{e, \sigma, \sigma^2, \sigma^3, \sigma^4, \sigma^5 \}\\
Y_2 &=& \{e, \sigma^2, \sigma^4, \tau, \tau\sigma^2, \tau\sigma^4 \}\\
Y_3 &=& \{e, \sigma^2, \sigma^4, \tau\sigma, \tau\sigma^3, \tau\sigma^5 \}\\
Y_4 &=& D_6
\end{eqnarray}
}

これで役者は全て出揃った。あとはこれらの対応関係を図示すれば目的は達せられる。しかし、その前にちょっと寄り道をして、ここまでに求めた集合や群の定性的意味を考えてみたいと思う。それが分かれば、最後に可視化を行った際に、状況がよりクリアに理解できるだろう。

まずNの元について考えてみる。これは一体どういう部分群になっているだろうか?ずばり、偶数回の回転操作のみを集めた部分群になっている*1。そこから得られた剰余類はそれぞれ何を表しているのだろうか?実は、 \sigma Nは奇数回の回転操作、 \tau Nは反転した状態での偶数回の回転操作、そして \tau\sigma Nは反転した状態での奇数回の回転操作を表している。

ここまでくると、剰余群 D_6/Nの元が表しているものが分かってくる。この剰余群は偶数回の回転操作の集まりNで割ることによって得られるので、偶数回の回転操作を全て同一視していることになる。すなわち、0回転だろうが2回転だろうが4回転だろうが、結局どれも偶数回の回転操作なんだから、細かい回転数は無視してまとめて考えてしまおうというのである。そのため、 D_6/Nの元は具体的な回転数を無視した、{偶数回転、奇数回転、反転偶数回転、反転奇数回転}という抽象的な操作の集まりから成る群であると考えることができる。

そうした時に、例えば X_1というのは偶数回転と奇数回転を合わせたものになっているし、 X_2は偶数回転と反転偶数回転を合わせたものになっている。また、 Y_1は具体的に偶数回転と奇数回転を表す元を全て寄せ集めたものになっており、 Y_2は偶数回転と反転偶数回転を表す元の寄せ集めになっているのである。これが上記登場人物たちの定性的解釈である。

では、これらの関係を図示してみよう。

f:id:peng225:20161218110308p:plain

上図左側が D_6、右側が D_6/Nである。また、自明な部分群については記載を省略している。これで随分と関係がはっきりしたのではなかろうか。

本稿の内容は私がぼんやりとしか理解できていなかった部分をはっきりさせるために書いたのだが、このレベルまで考察と可視化を行うと、もはや冒頭に書いた定理は自明にさえ思えてきた。数学というのは分からないうちはさっぱり分からないのに、分かってしまうと本当に当たり前に思えてくるから不思議なものだ。

参考

代数学1 群論入門 (代数学シリーズ)

代数学1 群論入門 (代数学シリーズ)

*1:単位元は0回の回転操作を表していると解釈する。