群が可解でないための位数の条件を炙り出す

可解でない群は珍しい?

群論を勉強していると可解群という概念が登場する。これはガロア理論において大活躍する極めて重要な群であり、群がどんな時に可解になるかというのは興味ある問題である。

しかし、位数の小さい群を見ていると、どうにも可解でない群を見つける方が難しいように感じる。それはある意味当然で、位数59以下の群は全て可解群なのである。つまり、可解でない群を見つけようと思ったら、ある程度位数の大きい群に目を向けなければならない。

そこで、本稿では群がどのような位数のときに可解でなくなり得るのかという条件について調べてみることにする。

可解群の定義

まずは定義から始めよう。本[1]から定義を引用する。

Gを群とする. Gの部分群の列 G = G_0 \supset G_1 \supset \cdots \supset G_n = \{ 1 \}があり,  i = 0, \cdots , n-1に対し,  G_{i+1} \lhd G_i G_i / G_{i+1}が可換群となるとき, Gを可解群という.

進め方

本稿では具体的なところから雰囲気を掴むために、以下の表を少しずつ埋めていくことを考える。

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 -
10
20
30
40
50
60
70
80
90

各セルは、最左列と最上段の数値を足して得られる整数が位数となる群を表す。そのような群がどうあがいても可解群になってしまうときに○をつけることにする。そうして、最後まで空白のまま残ったセルが可解でなくなる可能性があるというわけである。

可解群になる位数いろいろ

群の位数を素因数分解したときのパターンと、群の可解性の関係について調べてみよう。以下ではp, q, rは相異なる素数とし、n, mは正の整数であるとする。

位数 p

位数pの群はp次巡回群 C_pのみである。巡回群はアーベル群であり、アーベル群は可解群である。よって、位数pの群は可解群である。

これにより、以下のように表を更新できる。

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 -
10
20
30
40
50
60
70
80
90

位数 p^n

これは上のケースの拡張である。位数 p^nの群はp群と呼ばれる。p群は冪零群と呼ばれる群の一種であり、冪零群は可解群である。冪零群の定義を本[1]から引用する。

Gを群とする. Gの部分群の列 G = G_0 \supset G_1 \supset \cdots \supset G_n = \{ 1 \}があり,  i = 0, \cdots , n-1に対し,  G_{i+1} \lhd G G_i / G_{i+1} G/G_{i+1}の中心に含まれるなら、Gをべき零群という.

p群が冪零群であることと、冪零群が可解群であることの証明は長くなるので割愛する。

これにより、以下のように表を更新できる。

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 -
10
20
30
40
50
60
70
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90

位数 p^n q\ (q < p)

この節では q < pと仮定する。Sylowの定理より、この群Gは位数 p^nの部分群Hを持つ。この時、Hの指数はqである。

ここで、以下の定理を利用する (Wikipedia[2]より引用) 。

p が G の位数を割り切る最小の素数である場合、指数 p の任意の部分群は正規部分群である。

証明は[3]等を参照されたい。

少々ややこしいが、上記定理における素数pは今考えているケースではqに相当する。これよりHは正規部分群となるため、剰余群 G/Hを考えることができる。

ここで、さらに以下の定理を利用する (Wikipedia[4]より引用) 。

Gが可解群であるのは、NとG/Nがともに可解群であるとき、およびその時に限る。

ただし、NはGの正規部分群である。

今のケースに当てはめて考えると、 H G/Hが共に可解群であれば、Gは可解群になるということである。

 Hはp群なので可解群である。また、 |G/H| = qであり、位数が素数なので G/Hは可解群である。よってGは可解群である。

これより、表は以下のようになる。

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
-
10
20
30
40
50
60
70
80
90

位数 pqr

位数pqrの群Gは位数p、q、またはrの正規部分群Hを持つことが知られている[5]。Hは位数が素数なので可解群である。

どの場合でも同じなので、ここでは仮に |H| = pだったとする。この時、剰余群 G/Hの位数はqrとなる。この位数の群が可解群であることは既に述べた。よって上の節で引用した定理により、Gは可解群である。

これにより、表は以下のようになる。

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 -
10
20
30
40
50
60
70
80
90

位数がsquare freeの場合

これは上で示したケースの一般化である。位数がsquare freeであるとは、相異なる素数 p_1, p_2, \cdots ,  p_kを用いて位数を p_1 p_2 \cdots   p_kと表せることを言う。このタイプの群が可解群であるこの証明は、例えば[6]から順にリンクを辿っていくと説明がある。

位数が99以下の群の場合、位数を4つ以上の素数の積で表すことができないため、今回は特に表の更新はない。

位数 p^n q^m

このタイプの群が可解群であることはBurnsideの定理と呼ばれている[7]。これの証明はかなり難しい。少なくとも、今の私のレベルでは説明できない。本稿では結果だけ拝借させて頂くことにし、以下のように表を更新する。

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 -
10
20
30
40
50
60
70
80
90

位数が奇数の場合

驚くべきことに、位数が奇数の有限群は必ず可解群になる。これはFeit-Thompsonの定理と呼ばれており、証明は鬼ムズらしい[8]。今回の場合は、空白のセルはすでに偶数だけなので、特に更新はない。

さらに位数が大きい場合

以上、位数が99以下の群について、位数がどんなときに可解群にならざるを得なくなるのかを調べてみた。結局、可解でなくなる可能性がある位数はたった3つしかないことが分かった。しかも、これは必要条件なので、ひょっとしたらこれらも特殊な事情により必ず可解になったりするかもしれない。ただし、少なくとも位数60の群については、5次交代群 A_5が可解群ではないことが知られている。

また、逆に群が可解にならないためには、以下の条件を満たす必要があることが分かった。

  • 位数が偶数であること。
  • 位数を素因数分解したときに相異なる3つ以上の素因数が含まれ、かつそのうち少なくとも1つは指数が2以上になること。

これらの条件を満たす位数というのはどれくらいの頻度で出現するのだろうか?それを調べるために、ある自然数nについて、n以下の自然数のうちそれを位数とする群が可解でなくなり得るものがいくつあるか調べる。そして、それがnと共にどのように変わっていくのかをグラフにして見てみよう。

まず、300までの位数について計算したものを以下に示す。
f:id:peng225:20170922003148p:plain

このグラフからも、位数59以下の群が全て可解群になることが見て取れる。

次に、10,000までの位数について計算したものを以下に示す。
f:id:peng225:20170922003202p:plain

なんだか線形に増えているように見えるが、よく見るとやや下に凸な形状をしているようだ。

これより、可解でない群というのは無数に存在する可能性があることが分かった。ただし、本当に無数に存在するかどうか知るには、証明が必要である。

まとめ

以上、群の可解性と位数の関係を調べ、どんな時に群が可解でなくなり得るのかを考察した。今回は私が調べた限りの情報を載せたが、まだ見ぬ定理があって、本当の姿はちょっと違うということもあるかもしれない。有限群と言えど、結構奥が深いものだ。