代数拡大、分離拡大、正規拡大そしてガロア拡大へ
今日は久々にソフトウェアエンジニアとしてではなく、日曜数学者としての記事を書いてみる。
実はここ数カ月、ずっと代数学の勉強をしている。代数学は以前雪江先生の本にチャンレンジして、見事に撃沈したので、今は2度目の挑戦中である。(懲りずにまた雪江先生の本を読んでいる。)
最近ついにガロア拡大体のあたりまで読み進めることができたため、本格的にガロア理論の中身に入る前に、一度これまでの知識をおさらいしてみようと思う。
代数学を学ぶ上での1つのマイルストーンとして、ガロア理論があることは言うまでもない。このガロア理論の主要な定理として、ガロアの基本定理が挙げられる。これは、ガロア拡大と呼ばれる体の拡大L/K*1があったときに、その中間体とガロア群の間に一対一の対応があるというものである。(私もつまみ食いした程度なので、まだこれくらいの理解度しかないのはあしからず。)
ガロアの基本定理を1つの目標と考えた時、群に対してはその部分群を、体に対してはその拡大体を考えることが重要である。今日のテーマはこの体の拡大のうち、いくつか重要なものを取り上げ、その具体例を考えることである。体とはざっくり言うと元の間に四則演算が成り立つような集合のことである。有理数全体の集合(有理数体)、実数全体の集合(実数体)、そして複素数全体の集合(複素数体)などが有名である。
代数拡大
LがKの拡大体であるとする。任意のについて、Kの元が係数となるような多項式f(x)*2があり、となるとき、LはKの代数拡大という。例えばK=、の場合を考えてみる。であるが、これを根に持つような上の多項式は存在する。例えばなんかがそうである。そのため、にを付け加えてできる体をLとすれば、これはKの代数拡大となる。こういう体のことを記号でと書いたりする。
ちなみに、を根に持つような多項式で、最高次係数が1であるもののうち、より次数が小さいものは存在しない。そのため、f(x)のことをK上の最小多項式と呼ぶ。
もう少し具体的にLについて考えてみよう。単に集合の元としてにのみを付け加えてもこれは体にならないため(例えば乗法の逆元が存在しない)、付随していろいろな元が加わる。結果として、Lは以下のように表すことができる。
代数拡大でない例も考えてみる。例えばとすると、これは代数拡大ではない。なぜなら、を根に持つ多項式は、上には作れないからである。このように、代数拡大ではない体の拡大を超越拡大と呼ぶ。
分離拡大
L/Kが代数拡大であるとする。任意のについてK上の最小多項式がKの代数閉包*3で重根を持たないとき、L/Kを分離拡大と呼ぶ。例としては、例えば上で考えたなんかは分離拡大になっている。実際、最小多項式の根はであり、重根を持たない。
この分離拡大というやつはなかなかクレイジーである。なぜなら、代数拡大のうち、分離拡大でない例を見つけることが結構難しいのだ。
体には標数という概念があり、例えば標数pの体において、任意の元をp倍すると0になる*4。それに対して、例えばのように、元を何倍しても0にはならないような体の標数は0である。そして、標数0の体の代数拡大は必ず分離拡大になる。数学にあまり馴染みのない人間にとって、標数0の体というのは難しい議論の例を考える上で重宝するのだが、これが全て分離拡大になるのだとすると、分離拡大でない体とはどういうものか想像しづらくなるのだ。
しょうがないので標数が正の体について考えてみる。標数が正の体のうち、もっともイメージしやすいのが有限体である。これはその名の通り位数が有限の体のことである。「よし、有限体の代数拡大で分離拡大でない例を探してみよう」と思ったのも束の間、実は有限体の代数拡大も必ず分離拡大となるのだ。
では一体どんな体の拡大を考えれば、分離拡大でない例を見つけることができるのか?残された道は、標数が正であり、かつ位数が無限となる体だけである。実は、このような体の拡大の中には、確かに分離拡大でないケースが存在する。一番有名な例としては、*5上の有理関数体における拡大が挙げられる。ここで、であるため、は上既約な多項式である*6。しかし、上では*7と因数分解できるため、これは分離拡大ではない。
他にも何か良い例がないかと考えたのだが、結局上記のどこの教科書にも載っていそうな例しか分からなかった。どなたか他の例をご存知であれば教えて欲しい。
正規拡大
L/Kをやはり代数拡大であるとする。正規拡大を説明するために、K上の共役について述べておく。のK上の最小多項式において、同じくもこの方程式の根だったとする。このとき、αとβはK上で共役であるという。一般に、βはα同様にLに含まれるとは限らないのだが、Lの元のK上の共役が全てLに含まれるとき、L/Kを正規拡大と呼ぶ。例としては、やはり代数拡大のところで取り上げたが挙げられる。証明はしないが、このケースではに加えたについてのみ、上の最小多項式の共役がに含まれるかを考えればよい。共役はであり、これらはともにに含まれるため、は正規拡大となる。
正規拡大でない例も、分離拡大ほどではないが私のような素人には見つけるのが難しい。教科書に載っている例としては、が挙げられる。